エピローグ

1/1
前へ
/104ページ
次へ

エピローグ

 その珈琲店の入り口には、橙色のランプと変わった貼り紙がある。 『あなたの話を聞きます。ただ聞くだけ、何も解決いたしません』  その扉を開けると、黒縁眼鏡をかけた秀麗なマスターと、臨時ではなく正式に専属の掃除係となった青年がいる。  その青年は全身黒のスーツ姿で、短髪ではあるけれど、長い前髪が彼の瞳を半分以上覆い隠していた。  その瞳が透き通った美しい藍色をしている事は、親友であるマスターしかまだ知らない。  そして彼が、本当は優秀な死神である事も、親友であるマスターしか、まだ信じていない事だった。  店内のテーブル席には、ゆるやかなウェーブのかかったロングヘアーの女性がいて、ラベンダー色の美しいブックカバーのついた文庫本を持っている。  そしてその向かいの席には、整った顔立ちに、少しモッサリとした『ちょいダサ』な服装の男性が座っていた。  彼らは待ち合わせをしていた訳ではないようだが、店内で互いを見つけた瞬間、嬉しそうに見つめ合い同じテーブルに腰を下ろしていた。  --カロンッ。  扉についたカウベルが、新たなお客様の来訪を告げる。 「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」 「あの、入り口の貼り紙を見て……」 「ではカウンターの、左端のお席にどうぞ」  お客様を見て、掃除係の青年が驚いた顔をしてマスターにこっそり耳打ちしている。 「帳さん! あの方は、新たに私が関わった人です」 「という事は……。死神さんにはお気の毒ですが、また幸せな結末になる。という事ですね!」  笑顔のマスターの隣で、むーっと青年が膨れっ面をしてマスターを睨んでいる。  そんな店内に、また一つカウベルの音色が響いて、この帳珈琲店からの連鎖が始まる予感を告げたのだった。 (了) ***** 最後まで読んで頂き有り難うございました☕️ 感謝でいっぱいです! ナナセ(2024.3.2)
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加