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エピローグ
その珈琲店の入り口には、橙色のランプと変わった貼り紙がある。
『あなたの話を聞きます。ただ聞くだけ、何も解決いたしません』
その扉を開けると、黒縁眼鏡をかけた秀麗なマスターと、臨時ではなく正式に専属の掃除係となった青年がいる。
その青年は全身黒のスーツ姿で、短髪ではあるけれど、長い前髪が彼の瞳を半分以上覆い隠していた。
その瞳が透き通った美しい藍色をしている事は、親友であるマスターしかまだ知らない。
そして彼が、本当は優秀な死神である事も、親友であるマスターしか、まだ信じていない事だった。
店内のテーブル席には、ゆるやかなウェーブのかかったロングヘアーの女性がいて、ラベンダー色の美しいブックカバーのついた文庫本を持っている。
そしてその向かいの席には、整った顔立ちに、少しモッサリとした『ちょいダサ』な服装の男性が座っていた。
彼らは待ち合わせをしていた訳ではないようだが、店内で互いを見つけた瞬間、嬉しそうに見つめ合い同じテーブルに腰を下ろしていた。
--カロンッ。
扉についたカウベルが、新たなお客様の来訪を告げる。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
「あの、入り口の貼り紙を見て……」
「ではカウンターの、左端のお席にどうぞ」
お客様を見て、掃除係の青年が驚いた顔をしてマスターにこっそり耳打ちしている。
「帳さん! あの方は、新たに私が関わった人です」
「という事は……。死神さんにはお気の毒ですが、また幸せな結末になる。という事ですね!」
笑顔のマスターの隣で、むーっと青年が膨れっ面をしてマスターを睨んでいる。
そんな店内に、また一つカウベルの音色が響いて、この帳珈琲店から平凡な奇跡の連鎖が始まる予感を告げたのだった。
(了)
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最後まで読んで頂き有り難うございました☕️
感謝でいっぱいです!
ナナセ(2024.3.2)
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