桜の木の下で

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桜の木の下で

私の名前は春香。 田舎町に住む平凡な18才の女の子。 今日は高校の卒業式。 卒業を祝うかのように、空は晴れていた。 クラスの皆と別れを惜しんでさよならをした。 それから、大好きな匠と学校の近くの公園まで歩いた。 噴水がとても素敵で、前のベンチでいつも色々な話をした。 大切な思い出の場所。 公園の桜が咲き始めていた。 今年も一緒に見れて幸せだなーと春香は思った。 匠は瞳がとてもきれいで、私を見る時はいつも優しく微笑んでくれる。 一番大きな桜の木の下で高校最後の記念に二人で写真を撮った。 高校3年間ずっと隣にいてくれた。 いつも一緒だった。 勉強したり、生徒会の活動やボランティアに参加してたくさんの仲間もできた。 とても充実した高校生活だった。 春から私は、地元の大学に進学。 匠は東京の大学に進学することになった。 不安と寂しさの中、遠距離恋愛の始まりだった。 「匠!時々会いに行くからね。」 「春香!絶対来いよな。」 「俺も夏には帰省するから、その時にいっぱい会おうな。」 「一年後、またここで写真撮ろうな。」 と、匠は私の頭を優しくそっと撫でて微笑んでくれた。 それから匠は一週間後東京へ旅立った。 私は、アルバイトをしてお金を貯めて毎月匠に会いに行った。 ファーストフード店に家庭教師、掛け持ちでアルバイトをした。 匠は、 会いに行くと必ず空港で待っていてくれた。 色々な場所に連れて行ってくれて、一瞬一瞬がほんとに幸せだった。 このまま時間が止まってくれたらいいと思った。 大学でサークルにも誘われたけど、みんな断って、ひたすらアルバイトに明け暮れた。 匠に会いたい一心で。 7月のある日のことだった。 私はいつものようにアルバイトの帰り道、匠に電話をした。 「匠!バイトは終わった?」 と、聞くと何か気まずそうなそわそわした感じがした。 誰か隣にいる気配がした。 「来週そっちに行こうと思うんだけど、アルバイトのシフトはどうなってるの?」 と、言うと。 「う〜ん。来週土曜も日曜もバイト入ってるんだよな....」 「そうなんだね。」 「残念だけどーまたね。」 と、言って急いで電話を切った。 いつもの匠とは声の感じが明らかに違った。 あまり考えないようにしようと自分に言い聞かせた。 でも、やっぱり無理だった。 とても苦しい。 それからしばらくすると、電話もメールもなくなった。 8月は匠が帰省すると思って、いつでも会えるようにアルバイトも減らしてひたすら待った。 でも、匠からは何の連絡もなく帰っては来なかった。 夏も終わり、秋になり、寒い冬がきて華やかなクリスマスも一人ぼっちだった。 匠からは何の知らせもなく3月になってしまった。 晴れた日にあの約束の公園に行ってみた。 2人だけの大切な場所。 あの桜は1年前と何も変わってなかった。 咲き始めた桜はほんとにきれいだった。 でも、隣に大好きな匠はいない。 溢れ出す涙は止まらなかった。 一年前にほんの一瞬でもいいから戻って欲しいと思った。 きれいな桜を一緒に眺めて、何気ない話がしたかった。 しゃがみ込んで泣いていると東京の大学に進学した友人から電話があった。 「えーっとえーっと....」 しばらく、友達はだまりこんだ。 「あの〜春香は匠とは別れたの?」 「アルバイト先の女の子と付き合ってるみたい。」と、言った。 「うん、分かった。」 と、声を震わせながら言った。 「春香!大丈夫?」 「うん、ありがとう。」 と言って電話を切った。 桜の木の下で、わぁーわぁー泣いた。 薄々分かってはいたけど、やっぱり悲しい 匠の隣は私じゃないんだ。 触れることもできない。 あの優しい温かい声も聞けない。 優しい瞳を見ることもできない。 桜の花はきれいで好きだったのに、匠を思い出すから嫌いになった。 でも、それでもまだ嫌いになれない自分がいた。 1年たっても2年たってもあなたの瞳に写る桜がみたい。 この桜の木の下で。
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