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しかたなしに進学した大学に、演劇サークルは二つあった。
ひとつはアングラ系で暗くて意味がわからない舞台、もうひとつは「伝統的な」シェイクスピア演劇をするサークルだった。苦しい二択だったが、結局僕はシェイクスピアのほうのドアを叩いた。
苦しい二択と言ったのは、その「伝統的な」シェイクスピアサークルは、オールメイル、つまり男性役も女性役もすべて男性が演じるシェイクスピア時代の伝統を踏襲していたからで、女性にはそのサークルに入る権利がなかった。
それでもシェイクスピア演劇をやれるくらいの構成員は在籍していて、結構な大所帯であった。
サークルに入るに当たって、オーディションのようなものあった。つまり最初から、メイルなのかフィーメイルなのか、振り分けられるということだ。
背が低く、細身の僕はフィーメイルに振り分けされるのが目に見えていた。先輩は言った。
「最初から芝居ができるやつなんていない。学んでうまくなっていけばいい。でも持って生まれたビジュアルは変えられねえ。お前は女役に決定だな。これからは、女として生きろ。女として振る舞え」
やりたかったことと全然違うことに、正直戸惑いを隠せなかった。ちなみに、同級生で仲良くなった長谷川は、背が高くてガタイもいいので、男役に振り分けられた。
「そんなにがっかりするなよ」
と長谷川は言った。
「この劇団で舞台上に実際に舞台にあがれるのは三分の一くらいしかいない。裏方に回されないように、しっかり頑張っていくしかないよ」
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