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受け入れしは
大まかな説明を終えたアマガハラが、ところで、と真剣な声音で雪治に質問を投げかける。
「治癒力のことを抜きにしても、想定より早くそなたが私たちに近づいているのですが……そなた、新月の日以外にも力を使っていますか」
「……かなり使いましたね。ちゃんと使いこなせるようになりたかったので」
時渡りの力も霊力も使いこなすためにほぼ毎日使っていた日々と、着物を直すために時渡りの力を使ったことを思い出し、雪治は何かだめだったかと気まずそうに苦笑しながら頷いた。神から与えられた力は使えば使うほど神に近づくことになる。アマガハラは胸を痛め眉を寄せた。
「精勤なのも考えものですね。先に説明できていれば……申し訳ありません」
「いえ……」
アマガハラは人でありたいと泣いていた雪治を思い出し、苦しげに顔を歪めた。鍛錬が原因で神に近づくのを早めている、すなわち人でなくなってきていると告げられた雪治も悲しげに目を伏せたものの、すぐに明るく笑って言う。
「まあでも、どうせ人外になるなら遅くても早くても一緒ですよ。なら早く強くなって確実に困ってる人々を助けられる方がいい。誰かが俺の助けを必要としてるんだから、俺の気持ちよりそちらが優先されるべきです」
「そなたは神子に向きすぎていますね……」
取り繕っているわけではなく、どうやら本心で言っているらしい雪治の様子に、アマガハラは感嘆の息を吐いた。性格は神からの影響など受けていないというのに、なんと神子に向いた性格だろうか。自らも神子として雪治を選出した以上その資格はないと思いながらも、アマガハラは雪治を憐れまずにはいられなかった。
そんなアマガハラを置いてけろっとしている雪治が顔の横で挙手をしながら口を開く。アマガハラの優しさも相俟って雪治はすっかり最高神に慣れてしまったようだ。
「俺からも質問です」
「何でしょう」
「これからもずっと江戸で戦うことになるんでしょうか」
「いえ……そなたが救うべき人の子は他の時代にもおります。そなたが今まで関わってきた者たちと会うのはもうあと幾度かでしょう」
「そうですか……。ありがとうございます」
寂しがるだろうか、とアマガハラが神域から雪治をじっと見つめた。おりんや清之助に心を救われた雪治は、目を伏せて眉を下げ、やはり寂しそうだ。アマガハラは慰めの言葉をかけようと口を開き、しかし使命を課した己には何も言えまいと口を噤む。
説明も互いの質問も終えて、アマガハラは雪治を見ることをやめ、雪治も祈りをやめた。アマガハラは神域から天界へ戻り、最高神としての仕事をこなしながらも、雪治を思い目を伏せた。
「神の愛は重いと教えなかったこと、彼はいつか怒るでしょうか……」
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