もしかしたら。

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ハッとなって顔を上げると、その指の持ち主は瞼を軽く伏せている途中で。 こんなにも間近で魅せられるまばたきの瞬間に、わたしは喉の渇きにも似た感情に襲われた。思わず唇を引き結んでしまう。 「はい、これ」 そう言って、彼の手からわたしの手に直接渡される領収書。彼の手はとても冷たいのに、触れられたわたしの手はとても熱くて。それとも逆。まさかわたしの熱が彼の熱を奪ってしまったなんてこと、ないよね。 そんなわたしの戸惑いなんて、もちろん彼が気づくはずもなく。彼はネクタイの結び目に指をかけて緩めながら、もう片方の手で髪をかき上げた。そして、 「アイスコーヒーください。走ったら喉が渇いちゃいました」 子どものようにあどけない顔で笑った。その笑顔にきゅうっと胸が締めつけらる。わたしは苦しいながらも一生懸命声を振りしぼった。 「あの、アイスコーヒー、お礼にごちそうさせてください!」 「ありがとうございます。でも、気にしないでください」 「そんな…。あの、でも」 「大丈夫ですから」 彼はわたしに預けていた鞄を受け取ると、店の中へ入って行った。
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