たとえば自由。

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今日、お昼休みに入っていつものサイトを開くと、わたしの大好きなファンタジー作家さんの新作が公開されていた。 主人公はわたしよりも10歳年下の女の子。物語は彼女が政略結婚を迫られて、花嫁修行をさせられるところから始まっていた。 「…わたしと一緒だ」 違うのは、彼女は運命に抗おうとしている点。わたしももう少し若ければ、彼女のように反発することができたのだろうか。 ――…ううん、きっと歳なんて関係ない。 わたしはもう、諦めてしまっているから。夢も現実も。 だから、いいの。わたしには小説がある。自分の人生に夢を抱けないのであれば、ココで夢を見つければいいだけのこと。わたしにはそれくらいの幸せがちょうどいい。 手のひらからこぼれてしまう幸せなんて、わたしには必要ないから。 「葉山さん、葉山さん。ちょっとちょっとこっち!」 休憩から戻ると何故かスタッフのみんなが集まっていた。そこにわたしも加わるように手招きされる。 「どうしたんですか?」 わたしが失ってしまった若さとノリ全開に戸惑いつつも、今はその輪に入るしかない。 「ちょっと、すっごいイケメンが来てるんですよ!」 「芸能人かな、何してる人だろ?」 「一応オフィス街だからどこかの会社の人だと思うんですけど、あんなイケメンがいたら会社に行くの楽しみすぎるんですけど」 あんまり騒ぐと本人にも声が聞こえちゃうと思うんだけど…と思いつつ、空気を壊すことなくこの場をやり過ごせる言葉がすぐに浮かんでこない。 「ほらほら、あの角っちょに一人でいるスーツです!」 なんて、されるがままグイグイ最前列に押し出されてしまうわたし。 えぇと…、ここからちょうど対角線のテーブルか。どんな反応をすればみんなをがっかりさせないかな、なんて不安に思いながら目を向ける。ここでつまらない反応なんかしたら、みんなとの溝は深まるばかりだ。 だけど、そんな心配は無用だった。 何故ならば、そこに座っていた彼は下を向いて頬杖をつき、顔が見えなかったから。
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