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「すみません。あの、わたしがごちそうするって言ったのに」
「あぁ、大丈夫ですよ。気にしないでください」
「でも、」
「本当に気にしないでいいですから。それに…」
「……“それに”?」
「気持ち、なんですよね」
「え?」
「ちゃんと受け取りましたから」
「………え?」
その言葉の意味がよくわからなくて、わたしは首を傾げる。考えても心あたりがなくて、つい彼の目をまっすぐ見つめてしまった。彼はわたしの問いかけを眼鏡のレンズを通してまっすぐ受け取りながら、ゆっくりと笑った。
彼が笑うとキレイな眦がスッと細められて、唇が緩く綻ぶ。なんて穏やかで艶のある微笑み。
どうしよう。そんなはずないのに。わたしには何も残っていないはずなのに。それなのに彼に見つめられると胸の奥から言葉が湧きでてくる。それは期待、のような何か。
『もしかしたら』。
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