たとえば自由。

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「…残念!顔、見えません!」 ほっとしつつ、少し大袈裟に残念がって声を高めてみた。そうしたら、 「あ、じゃあちょっとテーブル片づけるフリしながら見てきてくださいよ。マジでイケメンですから!」 と、テーブルを拭くクロスを渡され、レジカウンターのこちらから店内に追い出されてしまった。 「え、え?」とわたしが戸惑っていると、「早く早く」とみんなの手がわたしを急かせた。他にお客様もいるし、あぁ、もうこういうノリって本当に苦手なのに…。でも、ここで嫌がって楽しい雰囲気を壊してしまうのはもっと嫌だ。と、そんな風に思うわたしの方が本当はイヤ。 だけど、仕方なく心を決めて、言われた通りテーブルを拭きながら少しずつ彼に近づいて行った。 ――…やっぱり学生は違うなぁ、、、 なんてため息をついてしまうわたし、葉山小鳥、26歳。今年で27歳になる。わたしがアルバイトしているこのカフェは午前中はパートのおばさん、午後になると授業を終えた学生アルバイトの子たちが働いている。そして、年令的にそのどちらにも属さないわたし。 もともと人見知りだし自分の思うことを上手に相手に伝えることができなくて人付き合いが苦手なのに、みんなに合わせなきゃって気負えば気負うほど上手に話せなくなる。 ――…まあ、ここでのアルバイトも、あともう少しで終わるからいいんだけど。 顔を上げてみんなの方を見ると、みんなが目をキラキラさせているのがこの距離でもわかった。あ、期待されている。わたしは思わず苦笑い。 わたしはみんなが揃ってイケメンだと言うお客様の隣りの隣りのテーブルを拭きながら、こっそり顔を窺ってみた。
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