振り向かないで。

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彼が店内に入ってくる。まっすぐわたしのいるテーブルまでやって来ると、 「良かった。仕事が少し早く終わったから来てみたんだ」 まだ何かをこらえるような目をして笑っている。ますます恥ずかしくなって、体が小さくなってしまうわたし。 ああ、やってしまった。スタートからこんなの、先が思いやられる。今日は絶対失敗しないようにって思ってたのに。 そんなわたしに構わず、吉川さんはわたしの隣りの空いているイスに鞄を置いた。自分は立ったままで、 「いつからいたんですか?」 「えっ?えっと、その、わたしもちょっと早く来ちゃったので…」 はりきって午後3時からいます、なんてとても言えない。軽く3時間越えてるし、これじゃ忠犬ハチ公だし、何よりも待ち合わせ時間を覚えていないだなんてこんな失礼な話ってない。 だけど、吉川さんはなんてゆーかなんてゆーか、本当になんてゆーかウソの効かない人と言うか、わたしレベルのウソが通用しない人のようで、 「もしかして、ずっと待ってたんですか?」 わたしの前にあるおかわり専用のマグカップを指差して言うから、わたしは首まで真っ赤になってしまった。
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