たとえば自由。

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わたしはいつも、最初に男の人の手を見てしまう。いきなり顔を見るのも失礼だし、目が合ってしまったらもっと気まずいし。何より、臆病なわたしが頑張って目を上げられるギリギリの場所にあるもの、それが手だった。 ――…あ、男の人の手だ。 カップを持つ手は白くてとてもキレイ。わたしは思わず見惚れてしまった。 わたしとは違う、関節の大きさが伝わってくる筋張っている男の人の手。うっすらと浮かび上がる太い血管はスーツの袖口へ向かって伸びていて、手首から第二関節へ伸びる筋は本当にキレイ。 久しぶりの胸の高揚を噛みしめていると、ふと、その指がカップから離れてしまった。 「あ。」 思わず一声。無意識に。「しまった」と思って顔を上げると、そこでわたしを待っていた瞳と出会ってしまった。銀色のメタルフレームの向こうに押しこめられた、瞳と。 …―――瞬間、 ドクンと体の奥で音が弾んだ。
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