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わたしが慌てて店内を後にし持ち場へ戻ってくると、仕事をしながら待っていたみんなが口々にわたしを出迎えてくれた。
「葉山さん、どうでした?」
「ね、ね、メチャかっこよくなかったですか?」
きゃあきゃあと騒ぐみんなの声に囲まれながらもわたしは、赤くなってしまう顔を隠すことに必死で。
「あ、なんか…下を向いてたから、よく顔が見えませんでした」
握りしめていたテーブルクロスを洗うため、蛇口を捻った。勢いよく流れる水を眺めながら、わたしはテーブルクロスを洗った。何度も何度も。そんなわたしの反応に興味が削がれたのか、みんな仕事に戻っていった。
水の流れる音だけがわたしの、真っ赤になった耳の内側に響く。一瞬だったけれど、確かに重なった彼の目を思い出しただけで、首まで赤くなってしまう。
――…あんなにキレイな男の人、初めて見た。
眼鏡の奥に隠された瞳はとても優しげだったけれど、どこか寂しそうに見えたのは、わたしの心が寂しいからなんだろうか?
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