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わたしは今、ほぼ毎日と言っていいくらいカフェでアルバイトをしている。大学を卒業してしばらくは会社に就職をして、普通に事務仕事をしていた。このカフェはその時から通っていたお気に入りのカフェだ。
晴れた日はオープンテラスが気持ち良くて、店内には読書を邪魔しない程度の音楽が流れている。そして、白い壁にはプロジェクターで映画が映し出されていた。古い白黒映画の日もあれば女の子が好きそうなおしゃれな洋画、アニメ映画の時もある。オフィス街の近くにありながら、ここに流れるゆっくりとした時間がわたしは好きだった。
会社を辞めて、いわゆる「家事手伝い」をしていた時、偶然このカフェがアルバイトを募集しているのを見つけた。「働きたい」と言い出したわたしに両親はあまり良い顔をしてくれなかったけれど、それでもなんとか期限付きで承諾してくれた。
約束したその期限はもう、すぐそこまで迫ってきている。年が明けて春がきたら、わたしは結婚する。
―――…親の決めた相手と。
正しくは、わたしの父方の祖父の決めた相手。
わたしの祖父は上場企業の重役で、父はその系列会社のひとつを任されていた。どちらかというと町工場に近い、とても小規模な会社だったけど何か特許を持っているとかで、その技術を欲しがる企業はたくさんいるという話だった。
それでも、いくら特別な技術といってもそれだけで会社を運営していけるほど世の中は甘くなかった。父の会社は何度か危機に立たされ、その度に祖父を後ろ盾に何とか乗り越えてきた。その祖父も病気で倒れてしまいもう長くないと知らされた時、どこからかこの話が迷い込んできたのだ。
その時、わたしはまだ大学生。これからいろいろな人と出会って知らないことをたくさん経験して、わたしの人生はここから始まるんだと胸をときめかせ、夢を抱いていた時だった。
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