入社

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勤続!激務!重労働! 「ひいいいいいいいいいいいいいいいいっ」  シングルソファと片手にコーヒー・・、お家でゆっくりリラックス。目を閉じる癒しのひと時。反復業務のフラッシュバックに男性は情けなく叫んでいた。  彼の名前は東谷正雄(まさお)。大学卒業後勤続8年、重量機械のネジを締める工場で働いていた。日勤8時間以上、ブルーカラーかつ同じことをひたすら繰り返すような重労働に耐えながら、来る日もその技術を積み重ねてきた。  抜け殻になったように瘦せ細った正雄。ときどき、フラッシュバックし絶叫する。モンキーで最後に(しぼ)るところ。 「 ──────────俺はただ、絞るために生まれてきたんか・・」  いや、そうじゃないと信じ、転職を決意した2月。引っ越しや転職にも頃合いの時期。  3月初旬、外に出た。気分転換と軽い職探しも兼ねて、商店街を歩いてみる。八百屋さんにはイチゴとキウイ、古物商にはお雛様、本屋さんには春のグルメや新作ファッション雑誌がズラリと並ぶ。  春の催しに彩られた商店街を歩く正雄。はじめに注目したものは電柱だった。 「あそこのボルト、締まってねえ」  正雄は呟いた。長い間、ねじを締めてきた。職業柄、彼は日常生活において注目するべく対象がいつも、付近のボルトに替わってしまう癖が付いている。  これは正雄自身自覚しており、いつもハッとして、注目する対象を本来の目的通りに見直すよう心掛けている。そして、彼は周囲を見回した。 (足場もないしちょっと無理やね。)  それでも正雄は電柱を思いながら、街を後にした・・。 「ひいいいいいいいいいいいいっ」  4月、職を辞して次の仕事を決める。工場勤務は選択肢になかった。社会に出て、人と接する仕事はしてこなかった。正雄は不器用で、人とのコミュニケーションに苦手意識がある。弱点を克服する意味でも、思い切って職種をかえて接客しようと決意した。  5月1日、ビジネスホテル入社。しかし、フロント業務に向き不向きを感じ5月中旬に見切り退社。ほか、同じようにいくつか転々としたが、長い間、自身が積み重ねてきたことを存分に発揮する場がないことに不満を感じ始めた。  ねじ。  正雄の頭に工場勤務の映像がフラッシュバックする。いつからだろうか、そのような映像を思い浮かべると、懐かしく、落ち着いた気持ちになれるようになっていた。 「ねじかぁ・・」  好きだろうが嫌いだろうが、長い間自分が積み重ねてきた技術を扱うこと。それが天職なんだと信じ、出戻りを決意した。
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