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秘密
行儀見習いも三年を迎えようとする冬の頃、静子姉さまのお加減が目に見えて悪化致しました。
御身体が丈夫でないのは存じておりましたが、どうやら心の臓の病らしく日に日にやせ衰えてゆくのがわかる程で御座います。
私はなんとか姉さまに元気を出していただきたくて、少しでも食べやすいものをお出ししたり、庭から花を摘んできてお部屋に飾ったりと微力ながらも知恵を絞ったもので御座います。
そんなある日、屋敷の主人たる清さまに呼び出されてお部屋に参りますと、清さまの御母上であらせられるヨシ様と清さま、お二人が並んで私を待ち構えておりました。
「千津、お前には原田家の後添えとして嫁に来て貰いたい」
当然のようにヨシ様が仰るので、私は仰天致しました。
「お待ち下さい。静子姉さま……奥様を離縁なさるおつもりですか!?」
斯様に弱った姉さまを放り出すつもりなのかと気色ばむ私に、清さまは首を横に振ります。
「医者が言うことには、静子はもう……長くても後ひと月ほどだそうだ」
「それではまるで、私が後釜に収まるために此処に来たようでは御座いませんか。静子姉さまのお心を考えますれば、見習いに参りました私が後添えなど……」
「千津、お前さまは何も聞いてはおらぬのかい?」
ヨシ様は呆れたように口を開きました。
「何も……とは」
「お前さまの父御とは最初からその約束であったのです。この家で三年行儀見習いをし、その後に清の妾となる。静子亡き後は後添えとしてこの家に迎える約定なのです」
「まさか! 父は一言も……」
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