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「おお……なんて綺麗な櫻だろう。白くて薄紅の……」
木乃伊のような、乾いた掌が私の両の乳房を鷲掴みにしました。
節くれ立った指の長い手はまるで鬼の手のように捻じ曲がり、爪が肌に食い込み血が滲みます。
私は恐怖でただひいと泣くことしか出来ませんでした。
「知っている、知っているぞ! 鬼が全てを教えてくれた!! 私は言ったよ、お前が清さまの御心を奪うのなら私は鬼になると! お前はこの身体で清さまを誑かしたのかえ? この櫻が私から清さまを奪ったのかえ?」
「いやぁぁぁぁぁっ! 堪忍して、姉さま、堪忍してぇぇぇ!!」
般若のような形相が私の顔を食いちぎらんばかりに迫り、両の手はそのまま引き千切ろうとするかのように乳房に食い込みます。
痛みと恐怖で私はただ泣き喚き、許しを請うのみです。
「千津、どうし……」
駆けつけた清さまが障子を開けて絶句しました。
それはそうでしょう。
一度は愛した女が鬼の形相で若い妾に馬乗りになって居たのですから。
しかしすぐに我に返ると、私から静子姉さまを引き剥がそうと姉さまの背を引っ張りました。
「やめろ! やめぬか静子!!」
恐ろしい鬼女は言葉を聞くでもなく、清さまが幾ら引こうともびくとも致しません。
これが死にかけの病人だとは到底思えず、まるで本当に鬼にでもなってしまったのではないかと思う程の力で私の乳房に爪を立てます。
「痛い、痛い!! 千切れてしまう!!」
泣きながら訴えますが静子姉さまの手は離れません。
ここで清さまが気付きました。
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