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「ごめん、柚季も理由があって俺と会いたくなかったんだよね。それなのに、何度も連絡して無理矢理押しかけてごめん。柚季が俺と連絡したくないほど思い詰めてたこと気付けなかった。」
「俺もちゃんと返事しなくてごめんなさい。」
いつもより廉さんが弱々しく見える。
俺と別れることに、胸を痛めてくれてるんだろうか。
「あれからずっと考えたんだ。柚季が告白してくれたあの日からの約3年間。柚季だって疲れてるのに、仕事帰りに家で待っててくれるのが、おかえりって言ってくれるのが嬉しかった。俺が最初の時、いつもこうだったらいいのにって言ったから言葉通り受け取ったんだよね。ごめん、もう無理しなくていいから。」
そう、初めて廉さんのアパートで待ってた時、すごく喜んでくれたから。
たった1秒でも会えるなら会いたいと思う俺は、その言葉を鵜呑みにして時間さえあれば押しかけていた。
別れたらもう廉さんを待つこともできないんだ。
「ご飯も俺の好みばかり作ってくれてたよね、どれも美味しかったよ。観たい番組も、エアコンの温度も何もかも俺に合わせてくれてたの気付いてた。柚季のことたくさん我慢させてたよね。もう我慢しなくていい。料理だって作らなくていいから。」
廉さんは家庭的な和食が好きだから、実家で母に和食料理の作り方を教えてもらってたんだよ。
今まで洗い物くらいでしかキッチンに立ったことのない料理初心者のご飯を、廉さんはいつも美味しい美味しいって食べてくれた。その時の笑顔が大好きだった。
今更思い出なんて振り返らないで。
嬉しかったなんて言わないで。
別れるのが辛くなる。
「柚季のこととなると嫉妬深くて重くなるところ、今だって年上のくせに余裕もなくて、かっこ悪いよね。柚季が好きだって言ってくれた『落ち着いていて大人な俺』とはかけ離れてることは分かってる。でも…柚季にまた好きだって思ってもらえるように頑張るから。俺の家に毎週こなくていい、俺が柚季に会いに行く。迎えに行くから。料理も俺がする、柚季が好きなイタリアンもスイーツも作るから。柚季のしたいことも嫌なこともすべて言ってほしい、俺ができることならなんでも叶えるから。だから。柚季と別れたくない。ずっと一緒にいたい。柚季のためなら、どんな俺にでもなるから。俺と別れないでください。」
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