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「王女、それは……。とにかく私は剣を手にしています。この女が暴れたら取り押さえないといけません。下がってください」
「もう、私の婚約者は心配性ね。それだけ私のことを大切にしてくださってるってことだけど」
フフッと笑って、アンジェラ王女はカイルの後ろに身を隠す。まるで彼女を私から庇っているみたいだ。その信じたくない光景に、胸がえぐれるような痛みを感じる。
(もう、わけがわからない。一年前、カイルはたしかに私と結婚しようと言ってくれた。それなのに、なぜアンジェラ王女の婚約者になってるの? この一年で何があったの?)
「うっ……ううう……」
ボロボロと勝手に涙が出てきて、止まらない。そのうえ、うめき声をあげるたびに苦しい痛みが襲ってきて、ビクリと体が動いてしまう。するとその動きで、カイルの剣が私の首に食い込み、つうっと血が流れ始めた。
「うう!」
(痛い! 喉も首も痛いよ……)
ギリッと歯ぎしりのような音が聞こえた。きっと私がメソメソと泣いているから、そうとう苛立っているのだろう。顔をあげると案の定、カイルの睨みは凄みを増していた。
「……おまえはこの王宮に、転移の魔術で現れたのか?」
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