エピローグ 満開の花の下で夫と

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「サクラが喜んでくれたらそれだけで俺も嬉しいよ」 「コホン! ほらほら、泣いてないで式を始めるぞ」  司教様の言葉であわてて前を向く。そんな私たちを見て司教様はにっこりとほほ笑むと、よく通る声で式の開始を宣言した。 「これよりカイル・ラドニーと聖女サクラ・ワタナベの婚姻の儀を始める」  ここからはこちらの世界の結婚式の作法に従うことにした。まずは聖水で手を洗い、神に捧げられた花びらを体にまかれる。司教様が私たちの結婚の許可をもらう古代語で綴られた詩を捧げた時、祭壇が虹色に光ったのは少しビックリした。  しかし今回、一つだけ私の要望も入れてもらった。それがカイルとの魔力交換だ。すべての儀式を終えると、司教様が来てくれた皆にそのことを説明した。 「聖女サクラの世界では婚姻の際、装飾品を交換する儀式があるそうだ。それを皆さん見届けてください」  そう言うとアメリさんが私に、ブルーノさんがカイルに、ケセラの町で買った小瓶のネックレスを渡してくれた。  二人同時に蓋をあけ、お互いの魔力を小瓶に注ぎ込む。蓋をするとお互いの首にかけあった。私たちにしか意味のない儀式だけど、幸せな気持ちが胸にあふれてくる。 (また私たちを守ってね……)  満開のサイラの下で誓ったあの日。途切れた縁をまたつなげ、そしてここにいる。私たちはお互いの顔を見つめ合い、司教様の次の言葉を静かに待った。 「では、神に誓いの口づけを捧げなさい」  実はカイルとキスするのは初めてだ。記憶が戻ってから何度となくそういう雰囲気になったけど、「ここまで待ったなら、最初のキスは結婚式がロマンティックだね」なんて言ったために、していなかったのだ。 (あんなこと言わなきゃ良かったと枕を何回も叩いたけど、待ったかいがあったかも)
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