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そういうことか。私にだけわかる言葉で、聖女の私を処刑するのに良い場所だと言っている。本当に残酷な人だ。しかも突き落とす役は、恋人のカイル。ああ、元恋人といったほうが、気がラクだ。
だって、彼は私に剣を突きつけて、王女の命令どおり私を崖から落とそうとしているのだから。
「悪く思わないでくれ」
カイルの声が聞こえる。もう何も考えたくない。ただ一つ悔やむことは、あのネックレスと死ねないことだわ。
後ろから、ジャリッと地面を踏みしめる音がした。そろそろだわ。私はゆっくり目を閉じる。そして次の瞬間。
ドンと強い力で背中を押され、私は一人、谷底に落ちていった。
違う。一人じゃない。私を後ろから、強く抱きしめている人がいる。カイルだ。
「目を閉じてくれ!」
目の前には激しく流れる濁流が、そこまできている。
そして次の瞬間、まぶしい光が私たちを襲い、目の前が真っ白になった。
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