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しかし女はまた咳込み、苦しみに顔を歪ませている。
「おまえは何者だ! どこから入ってきた! 答えろ!」
いつもならしない、まるで虚勢を張った怒鳴り声が自分から出ているのがわかった。こんな武器も持っていない、すでに捕縛されている女に何ができるというのだ。
それなのにこの悲しげな瞳に見つめられると、心の奥から妙な声が聞こえてきた。
――その人を傷つけるな
どこから湧いて出てきた考えかわからない。それに目の前の女は侵入者だ。甘い考えで油断をさせる魔術でもかけられたのだろうか。俺はその声を振り払うように、女の首筋に剣を当てた。
「おい! キョロキョロするな! 誰か仲間がいるのか? 答えろ!」
この女に冷たく言えば言うほど、じっとりと背中に汗をかき始める。首に当てている剣も、まるで反発するように力が入らない。無理やりにでも体面を保とうとすると、カタカタと剣が震えだした。そんな時だった。
俺の大嫌いな香水の匂いが漂ってきた。アンジェラ王女だ。王女は俺にベタベタと体をくっつけ、仕事の邪魔をしようとしてくる。離れろと言ってもお構いなしだ。
「うっ……ううう……」
目の前の女がいきなり泣き出し、ボロボロと大粒の涙を流している。体全体で悲しんで、絞り出すように嗚咽を漏らすその姿に、頭が真っ白になる。
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