06 得体の知れない声 カイルSIDE

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「言葉を話せないのか?」  その瞬間、目の前の彼女がパアッと花が咲いたように笑った。俺が理解したのが嬉しかったのか、子供のようにコクコクとうなずいては、上目遣いでじっと見上げている。  ――なんて愛おしいんだ。 (ダメだ。俺はもう彼女の魔術にかかっているのかもしれない。これはいけない。そうだ!) 「ケリー、魔力検査板を持ってこい」 「は!」  すると目の前の彼女の視線が、部下のケリーに移った。しかもなんだか嬉しそうにあいつを見ている。その表情に胸の奥がチクリと痛んだ。 (本当におかしいぞ。なんで俺は彼女がケリーを見ているだけで、苛ついているんだ?)  やはり最初に目が合った時に、何か術をかけたのだろう。俺は苛立ちを隠すように目に力を込め、ケリーが戻ってくるのを待った。 「持ってまいりました!」  ケリーが持ってきた魔力検査板を早速差し出したが、彼女の手はぶるぶると震え、測定が失敗してしまう。必死にもう片方の手で震えを抑えようとしている姿に、気づくと俺は彼女の手に自分の手を重ねていた。
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