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「お母さん。任せてください」
作業着姿の青年が自信ありの顔で両手を広げた。
「お願いします」
母親は、引きこもり息子の部屋の前で、作業着姿の青年に頭を下げた。
母親の手には、青年から手渡された名刺が握られていた。
母親は頭を下げたまま、手の中の名刺をちらりと眺めた。
『有限会社)便利屋タチバナ。引きこもり問題解決いたしマス』
と名刺には書かれていた。
「当社の引きこもり問題解決率は、控えめに言って99パーセント」
「はあ。そうなんですか」
うさん臭い――と母親は思った。しかし、息子の引きこもりを親では解決できなかったので、これはもうプロと言うか業者に任せるしかないと決めたのであった。
そうしてやって来たのが作業着姿の二人の青年だった。背の高い男が社長の立花で、背の低い男は近藤と名乗った。
近藤が母親に向き直って尋ねた。
「では始めます。その前に、確認ですが、こちらからは息子さんの淳くんには指一本触れません。しかし、たぶん驚かれるほど乱暴な形で引きこもりを解決することになりますが、よろしいですか?」
半笑いで母親は答えた。
「え、ええ。まあ、契約書はよく読みましたので。なるほど。あれなら、そうだと思います。ええ、もう、遠慮なくどうぞ」
「では。社長。オーケーです」
「おう」
社長の立花は、巨大なのこぎりが付いた機械を楽々持ち上げた。
ブルルルルンっとチェーンソーのエンジンが唸りを上げた。
近藤が閉ざされた部屋の扉をノックし、言った。
「淳君。最後の問いかけだ。引きこもりから卒業しないか? 自発的に部屋から出てきてくれたほうが、後片付けがなくていいんだがね」
……。
ガチャリ。
部屋の扉が少し開いた。
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