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「……僕だって
ホントはそっちに行きたいよ」
「じゃあ! 」
「でもな、ダメなんだ。
こっちの世界で、
こんな僕でも待っててくれる人が居る。
君もそうだろ?」
「修司さん……」
スアンの目に涙が浮かんだ。
「修司さん……。
貴方と出逢えてホントに、ホント……」
「それはコッチの台詞だよ」
「え? 」
スアンの手をより一層強く握った。
「君のお陰で
僕は過去の自分を肯定できた。
もう怖くなくなったんだ」
「修司さん……」
「ありがとう、
助けてもらったのは僕の方だよ」
修司は手を離し
エレベーターの扉から離れた。
「お別れだ、
早くしないと朝陽が昇っちゃうぞ? 」
「……これが最後って事ですか? 」
「最後だけど、終わりじゃない。
スアンのこと一生忘れないよ」
スアンの顔に笑みが浮かんだ。
そこで彼女は手に違和感を覚え、覗き見る。
氏名:倉山修司
受験番号:1164
「それ、捨てといてくれ。
親にバレたらまずいんだ」
手を握る時、
受験票を忍ばせていたのだ。
スアンの顔が緩く綻んだ。
「修司さん、
貴方は嘘つきじゃありませんでした。
わたしが保証します」
彼女の指が
エレベーターの[開]ボタンから離れる。
「どうか……、どうか、お元気で」
そして
エレベーターの扉がゆっくりと閉まった。
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