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2.5 幕間「あたし」
「あたし、今日から中原さんの隣になった桐生麻美だよ。よろしくね」
麻美が笑っている。
なるほど、次はあの子を仲間に引き入れればいいのね。了解したわ!
あたしは、目前に座る少女、中原小夜さん……だっけ? に手を伸ばす。
麻美に気が付いたくせに目を伏せるなんて、ひどいヒト。あたしの手にかかれば、そんな握りしめた拳なんて、すぐにでも開かせるんだから。
麻美の言葉にあたしの霊力が合わされば、怖いものなんてない。
他人が麻美に逆らう事なんて許さない。
でも、一体何が怖いのか、中原さんは頑なに言葉を返してくれなかった。
『なかなか強情ね。よし』
あたしは中原さんの顔を手で起こす。
『ほーら。あたしのご主人が誘ってんのに、なに俯いてんのよ。笑いなさい! あんたは笑うだけでいいんだから』
だってそれが麻美の望み。みんなが麻美を中心にして笑っている事、なのだから。
あんたの本心なんて関係ないのよ。
『……随分と強引な干渉ですが、守護対象に気付かれてしまえばアナタが消えてしまうのですヨ。アナタが居なくなった後、守護対象が廃人になってしまってもいいのデスカ?』
『そんなへまはしないわ。それに友達なんて、ただ動くだけのぬいぐるみと同じじゃない』
『ナルホド。言い得て妙ですね』
『でしょ?』
あたしは麻美の考えも選択も尊重している。
だって簡単に「赤の他人」が「良い友達」に変わる訳ないじゃない。ただ比較対象が増えるだけよ。
だから、ぬいぐるみ。
監視者が危惧しているような、麻美があたしに気が付くことも絶対ない。
麻美は絶対に、絶対にあたしみたいな存在を信じたりしないから。
それがどんなに残酷なことでも。
『よくわかりマシタ。でも、ヒト種はぬいぐるみと決定的に違う点がありマス。そして、すべてのことは帳尻が合うようにできてマス。極端な行動は適切にお願いしますヨ』
『心得たわ。それじゃあね』
監視者が何と言おうと、麻美が望む今の世界を守り続ける。
後のことは後に考えるわ。
それが、独りぼっちの麻美を守護る、あたしの役割なんだから。
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