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翌日の公演にジェロニモは現れなかった。彼の泊まっていたテントを探してもいない。テントの中のどこかに隠れているかと思われたがその様子はない。
「ああ……何てこと……」
本番を前にヤスミーナは泣き出しそうな顔で頭を抱えている。
リングの上の仲間たちはそれぞれ思い思いの場所に散って練習している。
「辞めないでってあれくらい言ったのに……。もっとよく見ておくんだったわ、彼が逃げないように」
今は朝の9時30分。パレードのない日の公演は10時開演だ。彼のことだからてっきり「やっぱり続けるよ」と言ってひょっこり控え室に現れると思っていたのに。
ホクの二の舞になったらーー。そんな悪い想像が頭を過ぎる。何としてでも見つけなくては。
「皆はパフォーマンスに集中して! 僕が探してくるよ!」
「まぁ待て」
と静止したのはルーファスだ。
「まだ時間は30分ある。奴の出番までは大体1時間半あるだろう。とにかく待つんだ」
「待ってることなんてできないよ! こうしてる間にも彼は遠くに行ってしまっているかもしれない」
焦る私の傍らでルーファスは余裕の笑みを見せた。
「待つことは一見受動的に見えるが、俺は能動的な行為だと思ってる。動くことよりも待つことの方が難しい。諦めるんじゃない。相手を信じてただ待て。ジェロニモはこんなことで倒れるような奴じゃない」
やがて開演が近づき仲間たちが控え室へ向かう。
ジェロニモはまだ来ない。
開演のベルが鳴り、オープニングショーが始まる。ケニーとともにいつもの場所で演技を見守る。
ピアジェの口上、空中ブランコ。もう20分が経過した。時間の経過とともに不安が高まってゆく。
綱渡り、オートバイショーで15分。
パイプレットとヤスミーナのジャグリングで20分。
やはり、ジェロニモはもうーー。
諦めかけたとき舞台が暗転し、目の前を横切る誰かの気配を感じた。
もう一度照明が灯ったとき、白シャツと黒のベストとパンツに身を包んだ青年の姿がリングの真ん中にあった。彼は堂々とした様子でボールジャグリングを披露し、ディアボロもミスなくこなした。
最後の余興、ヤスミーナとのクラブパッシングも成功させ、客席に向かって両手を高々と挙げて見せた。
オフ・ステージに戻ってきたジェロニモの身体を強く抱きしめた。ジェロニモは「痛いって、離せよ!」と照れていたが。これは困難を乗り越えリングに戻って来た勇気を讃え、パフォーマンスを成功させたことへの祝福の意が込められていた。
「よかったぞ〜、ジェロニモ君!」
涙で顔がぐちゃぐちゃになったケニーもジェロニモを抱きしめ、ルーファスもジャンもアルフレッドもヤスミーナも続いた。最後ジェロニモは皆にもみくちゃにされて痛い、暑苦しいと騒いでいた。ヤスミーナは涙を拭っていた。
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