夜のサーカステント

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 アルマンドという医師が雇用されたのは、エクアドル公演の前日だった。前の医師が逃げるように辞めてからというもの、なかなか医者が決まらなかったのだ。  アルマンドは小太りのインド人で、片言の英語を話し、昨年医師を退職してインドからエクアドルに移住したのだという。よく喋る男であるが、シンディのことをやたらジロジロ見ていて気味が悪くて私は苦手だ。  だが彼の能力は気持ち悪さとは反比例しなかった。彼は内科、外科の両方を極め、医学に関しては膨大な知識を持っていた。精神科医ではないらしいが、ケニーはよくアルマンドの部屋兼医務室にピアジェによって与えられるプレッシャーからくる不眠や精神的苦痛に関する相談に行っていた。  だがある日ケニーは珍しくぷんぷん怒りながらアルマンドの部屋から出てきた。どうしたのかと尋ねたら、「彼ときたら、患者が来たってのに『これからカレーを食うから後で来い』って言いやがった。今はお昼休憩でも何でもないってのに。何て奴だ!」 「まあまあ、カレーくらい食べさせてあげようよ。話なら私が聞くよ」 「ありがとう、アヴィー。君も疲れてるだろうから、あとでまた部屋に行くことにするよ」  ケニーはため息をついた。  
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