夜のサーカステント

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 5分後に4人がけのテーブルに座ったとき、カウンター側の窓際にいるケニーたちと店の奥の壁際の私たちで結構距離が開いていて様子が見えにくいことに気づいた。  2人が楽しく話してくれることを祈りながらメニューを眺める。私とジャンとアルフレッドは3分以内に即決したが、隣のルチアは迷っているみたいだった。 「ごめんねみんな、帰るのが遅れるわよね」 「いいよいいよ、どうせ今日は休みだし」とジャンがフォローした。 「私決めるの遅いのよ、いつも迷うの。皆先に頼んで」  ルチアの言葉に甘えて料理を注文して待つ間も、彼女はなかなか決められずにいた。  そういえば、子どもの頃はオーロラとよく家の側のファミレスに行っていた。私はメニューを網羅していたから予め何を食べたいか決めて行く。オーロラは5分くらい迷って「これにする」と決める。オーロラが選ぶのは季節限定メニューや新しく出たメニューだった。当たりもあればハズレもあった。ハズレだとしてもオーロラは口に合わないということを口に出さない。でも私は察して自分のハズレじゃない方の料理を半分オーロラにあげて、オーロラのハズレを完食した。  その話を聞いたジャンは、「お前いつもオーロラのこと喋ってるけどさ、そいつのこと好きなんじゃね?」と真顔で言った。 「僕もそう思う、彼女のことを話すとき楽しそうだもんな」アルフレッドも同意する。 「友達としてのLOVEだよ、彼女とは付き合いが長いんだ」  もちろんオーロラには会えるものなら今すぐ会いたい。話したい。彼女に会ったらきっと全てのメッキが剥がれ落ちて私自身に戻ってしまう。それはいつも心地よく繊細で春のように暖かい感覚だった。 「まぁいいんじゃね? 男女の友情だって成立すんだろ?」 「うん。それに、自分たちなりの関係があるならいいよね」  ジャンとアルフレッドがいいことを言ってくれた。  この気持ちを友達以外にどう定義するかなんて、これまで考えたこともなかった。ソウルメイトと呼ぶ気になれば呼べたけれど、そんな風にわざわざ名前をつけなくても私たちはずっと私たちの関係性でいられた。無理やり名前をつけると途端に陳腐に思えそうだった。 「決めたわ」とルチアがメニュー表の魚料理の写真を指さした。  立ち上がってケニーとシンディの方を見ると、2人は思っていたよりも話が盛り上がっているみたいだった。  店員が料理を運んできた。  私の頼んだシュリンプ料理のシュリンプの一つを、テラス席から店内に侵入した猫が咥えて走って行った。 「ああっ」  慌てる私を見てジャンたちが笑った。ルチアだけが1人悲しげに俯いていた。    
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