26人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日呼び出されて事務所に行ってみたら、ピアジェは憔悴した様子で椅子に腰掛けていた。
男は私の顔をジロリと見て一言告げた。
「お前をショーに出そう」
聞き間違えだと思った。
「えっ……。でも僕のスキットはつまらないんじゃ……」
「今考えたらそこそこウケそうなものもいくつかある。クリーやヤスミーナの話だと、ジャグリングや綱渡りも上達したということだ。まだまだ十分なレベルには達していないし気は進まないが、ルチアに免じて出してやろう。お前をショーに出さないと、娘がいつまでも口をきいてくれないだろうからな」
結局ルチアのためか。心の中で大きなため息が出た。
「頑張ります」
「だが条件がある」
ピアジェはピシャリと言った。
「スキットは必ずルーファスと2人でやれ。ルーファスがオーギュスト、お前がホワイトフェイスを演じるんだ。下らないパントマイムだけは辞めろよ。あんなもの、言葉をおざなりにしている」
「……分かりました」
私だけの能力を買われたわけじゃなかったことに落胆したが、ルーファスと2人でやるなら安心でもある。確かに私たちはいいコンビだし、賢くて才能に溢れた彼と2人なら面白い寸劇が作れそうな気がする。
ついでに言うと、パントマイムはつまらなくなんてない。ルーファスがやるのを何度か観たことがあるけれど、本当に物体がそこに存在するみたいに見えて凄く面白い。感性に乏しいピアジェが面白さを理解していないだけだ。
事務所を出る直前、ピアジェは釘を刺した。
「ミスは絶対に許さない。一つでも綻びがあれば、どうなるか分かってるな?」
「分かってます。精一杯やります。それと、パントマイムは面白いですよ。さっき言葉をおざなりにしていると言いましたが……。僕はこう思うんです。サーカスは聴くものじゃなくて、観るものだと」
ピアジェはくっと短い声を出して押し黙った。
最初のコメントを投稿しよう!