デビューまで

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 その後もルチアとは今まで通りの仕事仲間で、兄妹のような関係が続いた。時折彼女が見せる切なそうな表情に胸が痛くなるけれど、気にしすぎていては身がもたない。  そうこうしているうちに、デビューの日が近づいてきた。本番が近づくと、ピアジェはいつもよりもピリピリしてヒステリックになる。事務所でもトレーニングルームでも怒鳴り声が絶えず、列車内の雰囲気は最悪だ。    私はなるべく彼に会わないように、顔を合わせても極力話さないように下手に刺激しないようにして生活していた。この間のルチアのように、私を助けようとした第三者が傷つく事態を避けるためだ。それでも団長の方から声をかけてくることはある。練習をしている私に向かって「失敗したらクビだ」だの「デビューしたてだからって甘くみてもらえると思うな、観客にとってお前が新人かどうかなど関係ないんだからな」などとプレッシャーをかけてくるだけなのだが。  そんなときは「頑張ります」とだけ答え、今に見てろと心で毒づき唇を噛み締める。こいつをぎゃふんと言わせてやりたい。この男は私の士気を下げプレッシャーに負けて失敗をするように煽っているだけなのだ。だが彼に私の魂を奪うことはできない。サーカスを大好きな気持ち、クラウンを演じたいという強い想いを奪える方法があるとしたら、マクゴナガル先生の逆転時計で私がサーカスなんて知らない過去に時間を巻き戻すしかない。もしくは未来の技術を使って、サーカスもクラウンもサーカス列車も存在しない並行世界に私を飛ばすしかない。
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