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高校卒業後、シドニーにある大学で社会福祉士になるための勉強をしていたが、元が勉強嫌いの私は講義について行くだけで精一杯だった。母の叶えられなかった夢を代わりに叶えたい、何より苦しんでいる人の力になりたいという気持ちもあったけれど、周りの学生たちみたいな信念や覚悟や情熱はなかった。ボーイフレンドは何人かできたけれどいつもみたいにすぐに別れる羽目になった。心を許せる友人にも出会えず、そのうち通うこと自体が苦痛になり2年の8月に退学した。その後はファミレスやファーストフード店でアルバイトをしながら生きていた。私は母について母の実家のあるアルゼンチンに行くことになり、父は飼い猫のデイジーと一緒にシドニーに残った。
元々、家が近いという理由でなんとなく選んだ大学だった。大学を辞める時は落胆もあったが、残り50%以上を安堵が占めていた。毎日山のように降ってくるレポートの課題や長ったらしいだけでつまらない講義から解放されたことは正直喜ばしかった。大学自体に執着はなかった。本当に仲の良い友達も、仲良くなりたい相手もいなかったから。
この道に進んだのは、間違いだったんじゃないか?
入学してからというものずっと胸に渦巻いていた気持ちは、2年の時に行った精神障がいを抱えた人たちが入所している療養施設の実習で決定的なものになった。私は痛みを抱えている人たちと程よい距離で関わりたい、支えられるくらい強くないと思った。
退学を決めた私を母は責めなかった。「考え直してみない?」「お金ならなんとかするわ」そう言った母の悲しそうな顔を今でも覚えている。
私は人生を間違った。それによって母を悲しませた。その事実は今も私を苦しめ続けている。
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