桜の花の精

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桜の花の精

 私は桜の精。そうね。ご名答。桜の花の妖精よ。  私は桜の花が咲いてから散るまでしかこの世にいられないの。  日本のソメイヨシノが満開になるとぼんぼりみたいに丸くなるでしょう?  あのぼんぼりを作っている一つの桜に一つずつ桜の花の妖精が住んでいるの。透明な桜色の羽をつけているけれど小さすぎるし桜の花びらの色に紛れているから、人間に見つかったことはないわ。  そう。お花が咲いてから散るまでの間だけ、私たちはお外に出られるのよ。  だからお天気はとても大事。あまり暖かい日が続くと花はすぐに開ききって散ってしまうし。  だからと行って蕾になって寒い日が続いたり雨が降ると蕾のまま落ちてしまって、その年にはお外に出られない。  次の年に自分の住めるお花が気に付けばよいけれど、そうじゃない時には何年も桜の木の中で待っていることもあるの。  え?桜の精霊ではないのか?違う違う。桜の精霊は樹に宿っていて、すこぅし怖いのよ。人間の命を左右することもある位妖艶だしね。  私達桜の精はめったに人の眼には見えないわ。小さいし。  え? 命が短くて可哀そう?  ううん。  外に出られさえすれば可哀そうな事なんてないの。桜の花が散るまでに私はみんなに楽しんでもらって、風がふけば花びらを風に乗せ、色々なピンク色を見せてあげられる。  そして、いよいよ散っていく時には私の一番美しい姿を見せてあげられる。  散り際の桜の中で私たちはキラキラと一度輝いてから桜の花を真ん中から切り離すの。そうすると一つの花の花びらではそんなに目立つものではないけれど、みんなで散らせた桜吹雪と呼ばれるものはとても綺麗になるのよ。  え?知っているって?  そう。見てくれているのね。嬉しいわ。  でも、今年からは私達桜の花の精が頑張っているって言う事を覚えていてもらうと、もっと桜が綺麗に見えると思うの。  私、桜の花の精はとても好きなんだけれど、本当は少し嫌いでもあるの。  桜がもっと長く咲けるお花だったらみんなともっと仲良くなれるのにね。  それだけが、私が桜を嫌いな理由だわ。  でも、みんなはそんなこと気にしないで綺麗に咲いた桜を今年も愛でてください。それが私たちが一番嬉しい事だから。 【了】  
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