第五話

1/3
前へ
/82ページ
次へ

第五話

クーラーの効いた下宿の居間で、蘭と小波がゲームに勤しんでいた。 「どぅぅうっらぁあ!!」 「バッカだなぁ蘭は!威勢だけいいんだから。はい、ジエンドー」 「クッソォオオ!!」 蘭が四つん這いになって、畳をどんどんと叩く。そんな蘭の横で小波が爽やかな風を吹かせて立ち上がる。 蘭の四つん這いの背中の上にわざわざ片足を乗せて高笑った。 「引きこもりゲーマー歴12年の小波様に勝とうなんて裸でアンアン泣いても2万年早いわ!」 「お前の煽りマジムカつく。俺のやりたいことリスト一番上はお前の完全敗北!」 「やりたいことはすぐにやれよー?!アッハハハハ!」 蘭は負け犬の罰として足蹴に耐える。 涼しい室内で暑苦しい二人を無視して、ちゃぶ台では貴之と京子が頭を寄せ合って勉学に勤しむ。 「で、この公式に当てはめればオッケ」 「ああ、そういうことだったのね。わかりやすいわ貴之、ありがとう」 「いいよ。いつでも聞いて」 ニコリどころかアイスも溶け切ったデレデレ顔で貴之が後頭部をかく。 ピアスバシバシの威厳がまるでない。ただのデレ男だ。 京子が垂れる後れ毛を右手で左耳にかける仕草に食いついている。 蘭と小波は顔を見合わせてニヤリと笑った。 そーっと二人で貴之の背後を取り、蘭が右耳、小波が左耳に息を吹きかける。 「「フーーーー」」 「アンッ」 色っぽい声で鳴いてしまった貴之を京子がキョトンと見つめる。 首から順に顔のテッペンまで赤くしていく貴之に、蘭と小波が畳を転げ回って笑った。 「アンッだって!!」 「貴之エッロい声出すじゃん!」 「お前らブッコロ!!」 蘭の上に馬乗りになって貴之が胸倉をつかむが、蘭は呼吸困難になってゲラ笑っている。 小波はサッと京子の背後に逃げ込んで抱きついた。 「キャー京子ちゃん助けてー貴之に襲われれるぅー」 「私が守ってあげるわ小波」 4人でじゃれていると、下宿の古いチャイムが「ビー」と耳障りな音を立てた。   
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加