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小波と京子が、照り付ける太陽の下、百段階段をのそのそと上っていた。
「京子ちゃーん、身体が溶けちゃうよー」
「ほんと、アイスなんかすぐ溶けてしまうわ。ほら急いで小波」
小波が汗だくで百段階段を上り切ると、先に上り切った京子が木陰でしゃがみこんで黒ノラ猫と戯れている。
小波も京子の隣に屈んで、黒ノラ猫の頭を撫でた。
(短いな)
黒ノラ猫の頭の上に浮かぶ数字は蘭よりも少なかった。
ノラなのでいつ何があっても不思議ではないが、小波はもの悲しい気持ちになる。
小波は商店で買ったソーセージを取り出して、黒ノラに食べさせた。
「ノラに食べ物あげちゃダメよ。小波」
「うん、そうだよね。でも、この子にはちょっとだけ特別」
覇気のない小波の声に京子は首を傾げた。黒ノラにソーセージをやっていると、茂みの中からもう一匹黒い子猫が出て来た。
親子かもしれない。黒ノラが子猫にソーセージを分け与える。
「あら子猫、可愛いわね」
京子が小さな子猫を撫でる。
小波は息を飲んだ。
子猫の余命は、黒ノラよりさらに短かった。
(どうしてそんなに短いの?)
小波だって京子のように、無邪気にかわいいと撫でてあげたかった。でも小波はこれ以上、情が湧くのが辛くて立ち上がった。
逃げなきゃ。
「京子ちゃん行こう、アイス溶けちゃってるよ?」
「あ、そうね。行きましょうか」
小波はもう猫たちを見なかった。
余命が見えたって、小波にはどうすることもできない。
痛い思いはしたくない。
だから、これ以上、
特別な想いは持っちゃダメ。
蘭にだって、
友だち以上の想いなんか持っちゃダメだ。
こんな目と生きなきゃいけないんだから。
ただ淡々と終わりを受け入れるのが正しくて、小波らしい。
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