第六話

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下宿に帰ると、予想通り下宿でダレていたらしい貴之が京子だけを盛大に迎えてくれた。 「お帰り京子!」 「貴之、黒猫がいて可愛かったのよ」 「ああ、最近この辺よく見るよね」 (でも京子の方が断然可愛いっていう副音声が余裕で聞こえてくるなぁ、貴之) 小波のことを完全に無視する貴之に、小波は感服する。 あいつ最初アンニュイなクズ感出してたくせに、ただの京子溺愛男じゃないか。 事情がどうとか知らんが、はよくっつけ。 涼しい居間に入ると、蘭がゴソゴソと押し入れを漁っていた。 「蘭、何してんの?」 「なんか貴之がやりたいことリストで」 「小波ちゃん!これ!やろう!お願い!」 京子に冷たい麦茶とアイスをおもてなしした貴之は、小波に紙を突き付けた。 いつでも誰でも書いていい「やりたいことリスト表」だ。下宿の冷蔵庫に貼ってある。 小波が貴之の手からリストを受け取る。 「『浴衣で祭り行きたい!』え、お祭り!?」 小波がキラッと輝く瞳で貴之を見上げると、貴之が大きく頷く。 「花火も上がる!年に一度だけ、この村が盛り上がる祭り!」 「いいね行こう!やりたいことはすぐにやれ!だ!私、浴衣持ってきてる!」 「小波ならそう言うだろうと思って、浴衣探してたってわけ」 蘭がニヤッとデカい口で笑うと、小波の胸がぎゅぎゅぎゅと縮む。 いやいや、おかしいおかしい。 落ち着け心臓。不整脈やめろし。 京子が真っ赤な舌でアイスを舐めとってから、さっと立ち上がった。 「お祭りの日、うっかりしてた。私、一度帰るわ」 「僕が送るよ。じゃあ蘭と小波ちゃん、準備して『神社に18時』ね」 「おー」 京子がスクールバックを下宿に置きっぱなしで、めずらしくバタバタと慌てて出て行った。 浴衣着て貴之にアピールしちゃうのかなと、小波は微笑ましくなった。    
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