第七話

2/3
前へ
/82ページ
次へ
せっかく賑わっている神社を後にして、ズカズカ家路を進んでいく蘭の後ろを小波は小走りしていた。 「蘭、なんで帰るんだよ!祭りはこれからだろうが!何考えてんだガッテム野郎!!」 「お前ってなんでいつもそんな元気なんだよ?ウケるわ」 蘭は振り返って小波が追いつくのを待ってから、隣を歩き出した。 蘭がクククと顔をクシャらせて笑うと、小波の胸がキュっと縮む。 おいおい待て待てヤメロ心臓。 最近よくある不整脈。 心臓の調子が悪いだけだ。そう、ただそれだけ。 蘭が機嫌よく笑うと、小波の瞳には頭の上の「数字」が余計に映えて見える。 知ってる? 来年の祭りに、蘭はいないんだよ? もう二度と一緒の夏休みなんて、ないんだよ? ますます小波の胸が縮みあがった。 「祭りの隅から隅まで一生忘れないくらい、遊びたいに決まってるじゃん!」 「祭りに命かけ過ぎかお前。また来年もあるだろ?」 いきなりしゅんと唇を噛んでうつむいた小波に、蘭は首を傾げる。 「どした?お前ってテンション乱下降過ぎね?」 蘭が大きな手の平で小波の頭をくしゃりと撫でる。 無防備な距離感バグのスキンシップに、小波はいちいちかき乱される。 来年なんてないのに。 撫でないでよ、困る。 優しいの、困る。 心臓ぎゅぎゅぎゅ、ほんと困る。 小波はこの胸にある熱いものに、気づきたくなかった。 小波は蘭が頭を撫でる手をパッと避けて、前に進んだ。 百段階段を前にして、小波はくるっと蘭をふり返ってニッカリ笑った。 「蘭!グリコじゃんけんやろうッ!!」 「お前どこでも遊びたがるな。よし乗った」 「蘭もいっつもノリ良いよね!」 小波は噴き出して笑って、最初のじゃんけんを仕掛ける。 深く考えちゃダメだ。 蘭は友だち。 友だちとして、余命まで楽しく遊ぶって決めた。ただ、それだけだから。 「最初はグー!じゃんけんぽん!」 蘭と小波は、祭りの喧騒が遠く聞こえる百段階段を、グリコじゃんけんしながら上った。 「グーリーコ!やった!私の1段勝ちぃ!さあ跪いて、崇め奉れ蘭!!」 「お前の煽りスキル、小学生より半端ない」 蘭が腹抱えて、腰をかがめて笑う。 そうやって、目がクシャと潰れた蘭の酔っていない笑顔に、小波はまたキュッと不整脈が起こる。 「もう一回やろうぜ」 「うん、いいよ?」 小波がさっそく階段を下り始める。 蘭がやりたいと望むなら。 それをやって蘭が笑って楽しいなら。 この時間が止まるくらい、小波は全力で遊びたい。 蘭の頭にはいつだってタイムリミットがついていて、冷たい終わりの足音を小波に響かせる。 でも、最期まで悔いなく遊ぶと決めたから。 小波は一人だけで終わりを背負って、クスッと笑った。 女を見せる小波の「クスッと」に蘭はいつも目を奪われる。元気な小波と、女のクスッとの落差が蘭を惹きつけた。 「蘭、何回でも、いっぱい遊ぼ?」 小波のクスッとに、思わず蘭の手が伸びた。 止まらなかった。   
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加