第二話

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だが、小波には今、村社会の闇深さを論じている時間はない。 「オッケーわかった! ヒマなんだよね? ヒマだからグレてんだ、小波さん了解!」 小波がニッカリ笑って、3人をダブル人差し指で突き刺した。 3人はそろってあんぐり口を開けた。 (((ヒマ、の一言で済ました!!))) 小波はポケットから紙を取り出して、3人の前に広げた。 元気に大きな声で小波は発表する。 「ジャーン!!そんなヒマでグレてるみんなにはコレ!やりたいことリストでーす!」 「やりたいことリストって何なの?」 「あーこの前、夜言ってたやつ?お前本気かよ」 小波が広げた紙を3人がのぞき込む。食いつきは上々だ。 「本気も本気!人生は短い!短い人生に悔いを残さないために、やりたいこと全部すぐやろ!」 「小波ちゃん短い人生への準備いいね」 「終活が趣味なの?」 「まあまあ、限界にチャレンジ!っていう遊びだよ!」 貴之と京子が顔を見合わせて肩を竦ませる。くだらないとでも言いたげな仕草だ。 だが、蘭は違った。目を輝かせて小波の紙を取り上げる。 「いいじゃん、面白そう。やろうぜ!」 京子がフッと笑うと、つられて貴之も笑った。蘭ってのは昔から、そういう奴だ。 金髪も酒も煙草も女遊びも、面白そうと言って、最初に始めたのは蘭だった。 面白そうな未知のことに、自ら飛び込んでいくのが蘭だ。 そんな二人の様子も知らず、小波は蘭の隣でウキウキだ。蘭が乗って来なきゃ意味がない。 「だよね!見てみて私さっそく書いてみたんだけど!」 「海で遊ぶ?はぁー?俺らガキのころからクソほど遊んで飽きてるわ」 「そりゃあ蘭たちは飽きてるだろうけど、私は山も海も珍しい人種なんだよ!」 「海は却下。俺はバンジージャンプやりたい」 「いいね!じゃあ私はサイダー風呂に入る!」 「それいいなおもろ!!」 盛り上がる蘭と小波の横で、京子がポイッと煙草を投げ捨てる。 ピッと右手の肘から上をあげて、静かに京子が言った。 「じゃあ私は、札束の風呂に入りたいわ」 小波は乗ってきた京子にガバッと抱きついた。京子の胸が、小波のぺったんこ胸にぽよんと当たる。 「京子ちゃんの意見、即採用ー!夢の金風呂!」 「は?どうやって札束用意すんだよ」 「そういう具体論は後なんだよ。とにかくやりたいこと案を出しまくる!」 蘭と小波がやいやい言いあう横で、サッと貴之が財布から黒光りのカードを取り出した。 青い空の下でクレジットカードがキラリと輝く。 「じゃあ僕は『親父のクレジットカードを限界まで使う』にしようかな」 蘭と小波が両手を掴み合って、目を大きく見開いた。 「貴之ヤバッ!いいのそれ?」 「ダメに決まってるよ?」 「よし、すぐやるぞそれ!!」 「よし、お金の問題は解決だね。貴之パパのカードですぐバンジーやろ、明日行こう」 「明日?!」   
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