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第十八話
ついに桜咲く4月。蘭の余命まであと1日。春爛漫と共にその人が下宿に帰ってきた。
「ランラン、たっだいまぁああ!!」
「母さっグッヘ」
熱々の抱擁を受ける蘭と同じくらい背が高い蘭の母親、千香子に、小波は驚いた。
声もデカいが、胸もワンダフル大きくて、背も高い。テンションも高くて、全てにビックな千香子に小波は圧倒されるばかりだった。
「小波ちゃん、ランランと仲良くしてくれてありがとう!ガールフレンドね!」
「お世話になってます!!」
「んー!礼儀正しいワンダフル!」
蘭同様にビッグハグ頂いた小波は、下宿の居間で、千香子の難民キャンプあるある百裂トークを聞かされることになった。
蘭はすぐに逃げ出して貴之と京子を召喚した。二人で相手をしきれないほどのパワフルさである。
下宿にやってきた貴之が、蘭の肩を叩いてグッと親指を上げた。
「蘭、千香子さん呼び戻すとかお前天才??」
「お前が医者いた方が良いって言ってたんだろ?」
「僕そんなこと言った?」
貴之は自分が蘭にヒントを与えてことにはまるで気がついていない。
だが、蘭は貴之が医者を配置するという具体策をヒントとして零したことで、母を召喚するという「自分らしくないことキャンペーン」を実行したのだ。
「蘭、すごい。とても心強いわ」
京子も蘭の千香子召喚を崇め称えた。こんなド田舎で「もしあの時医者が近くにいたら助かったかもしれない!」はこれで回避できるわけだ。最高の備えである。
もう明日が蘭の余命日。もう打つ手がなくて困り果てていた貴之に救いの手だった。
千香子を交えた5人で夕食を終え、20時を過ぎたころ「ビー」と耳障りな古いチャイムが下宿に響き渡る。
千香子以外の全員が、誰が来たかわかっていた。里緒菜だ。
蘭が立ち上がりズカズカと玄関へ向かう。ずっと続いているルーティンだ。
小波がジュースを飲んでいると、京子がちゃぶ台に肘をついて小波に訊ねた。
「小波って心が広いわよね」
「どうして?」
「だって蘭に里緒菜が持ってくるお菓子食べないで!とか言ったことないもの」
千香子はワインをグイグイ飲んで、面白そうな話題に耳を傾けている。貴之はすっかり離脱して柱に背を預けてまたノートにペンを走らせていた。
「それ蘭にも言われたけど、美味しいからいいじゃん?」
「まあそうだけど、私だったらダメって言っちゃうわ」
「私も、ダーリンに手作りお菓子持ってくる女なんて弾き飛ばしちゃう」
千香子が今もラッブラブ熱々らしい蘭の父親を想って、キュンキュン恋バナに乗って来る。
小波はジュースを飲みつつ里緒菜に対して敵対心が湧かないことを考える。
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