第十八話

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「だって蘭は、私のことが、その、好きだと思うから」 「キャア!ランランったら信じられてるぅ!」 「ふふっ、そういう余裕って素敵よ小波」 「余裕って言うのかなぁ?」 「何が?」 蘭が今日も里緒菜からのマドレーヌをかじりながら居間に戻って来る。 蘭は絶対かじりながら帰って来る。居間まで待たない。 「今日はマドレーヌ!大好き!」 蘭がちゃぶ台に乗せたマドレーヌに小波もすぐ食いつき、全員で食した。今日も里緒菜のお菓子はガチで美味しい。 貴之は4人が里緒菜の手作りお菓子を食べる光景を見て、頭をガシガシかいた。 「俺らマジで里緒菜に餌付けされてんな」 「この味を知ったら抜け出せないね」 「それな」 ケラケラ笑う蘭と小波の会話に、また貴之は首を捻った。 「餌付け?」 貴之が餌付けの言葉に引っかかる。 クロは女子高生たちみんなに、餌付けされていた。 不特定多数からの餌付け、不審な電話に、突然の死。 「もしかして、餌に毒?」 貴之がポロッと手から落としたペンをいつまでも拾わないのを見て、京子が貴之の側に座り直す。 「貴之、どうかした?」 「京子、僕ちょっと確かめたいことができた」 貴之が立ち上がって帰り支度を始める。 「貴之、帰るのか?」 呼びかける蘭に貴之は歩みより、胸倉をつかみ上げる。 「蘭、絶対死ぬなよ」 いきなりの貴之の真剣な声に、蘭は頷く。 「あったり前」 ニッカリ笑う蘭に笑った貴之は玄関へ向かった。 「タカユッキ、なんかかっこよくなったじゃん??」 千香子は笑い飛ばすが、小波は貴之の言葉の重さに背筋が冷たくなった。 京子も荷物を持って貴之の後を追いかけたが、一緒に行こうとすると玄関で止められた。 「京子はここで、蘭の余命までずっと二人の側にいて」 「貴之はどこに?」 「僕はもう一度テテに話を聞いて来る」 「テテに?」 「あの日、村にあった違和感はテテだけだ」 クロが死んだ日、いつもならいるはずのないテテが村に帰っていた。 不審な電話で気を逸らして、クロに毒入りの餌を食べさせたのがテテなら? 次に蘭を殺すのも、テテ? 「京子、お願いがある。絶対に守って欲しい」 京子の手を取って、貴之は京子に策を授ける。 「貴之は大丈夫?なんだか怖いわ」 「僕は大丈夫。だって初めて会った日に小波が、僕は御長寿だって言ってた。今だからわかるけど、これほど安心できるものないよね」 にっかり男前に笑った貴之は、京子にキスを残して一人でテテの家を目指した。   
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