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二人で居間に戻ると、京子がすでに泣きそうな顔をしていた。
小波が京子に駆け寄って抱きしめる。
眠る千香子の隣で、蘭が胡坐をかいて座った。
これから1日に何が起こるのか、誰にも予期できなかった。
「よし!貫徹スマブラやるか!」
「よし!やろう!」
「そうね」
絶対に蘭は1人にならないと決まりを作り、3人で気を紛らわすために居間でゲームをし始めた。
何事もなく、時計が2周することを祈って、テレビにかじりついた。
「んー!!グッモーニン!ってみんな寝てないの??若いねー!」
千香子が廃人のようにテレビにかじりつく3人に呆れてから、朝風呂に入りに行った。
コントローラーを手放して、蘭が寝転がる。
「腹減ったー!」
「そうだね、そろそろなんか食べようか」
「あ、それなんだけど」
京子が蘭の口の前にピシャリと手を出して制止した。
「蘭、今日一日何も食べないで」
「は?死ねってこと?」
「シャレになんないこと言わないでよ蘭」
小波が蘭の頭をひっぱたくと、京子が座り直して説明した。
「貴之が、蘭に今日一日何も食べさせるなって言ったのよ」
「どうして?」
「どうしてかは、わからないんだけど」
3人でそろってうーんと首を捻る。頭脳担当、貴之は留守である。
「そういえば貴之、帰って来なかったね」
「家帰って寝たんじゃね?」
「貴之が今日そんなことするかしら」
京子が一向に連絡のないスマホを見ては不安を募らせる。
貴之が夜におやすみと連絡を寄越さないことは、付き合ってから一度もなかった。
それが蘭の余命なんて大変な日に、来なかった。
日付が変わる前に戻ると言った貴之がまだ戻らない。
こんな日に、いつもと違うことが起こるなんておかしい。京子はヒリヒリと良くないものを感じていた。
「私、貴之を探しに行くわ。テテに会いに行くって言っていたから」
「俺も行くか」
「蘭はダメ。余命なんて予言されている日に気にせず動き回っちゃうのが蘭らしいの」
「京子ちゃんの言う通り。動かない方が蘭らしくない選択だね」
「そう。『らしくない』を選び続けましょう。
怖いからママの側にいる、なんて絶対蘭らしくない。
だから、今日は千香子さんの側にいて」
「わかった。今日の蘭はマザコンデイ。いや、元から割と」
「おい。ってか俺すでにハラペコなんだけど。俺の死因、餓死??」
小波がブラックジョークが過ぎる蘭の背中にキックしてやった。
「小波、蘭に絶対に何も食べさせないで」
「約束する」
京子が出かけ、蘭の膝の上で小波はコントローラーを動かしていた。
下宿から動けはしないが、時間の流れが遅すぎるのでゲームをして誤魔化すしかない。
すでに換算12時間はやっている。もう頭バグっていた。でも、やめたらコワイが襲って来る。
静かな下宿、穏やかな気候、居間でくつろぐ千香子。一緒にゲームする蘭。
何もかもが普段と同じ。どうして、どうして、今日蘭が死ぬのか、まるでわからない。
そんなの嘘としか思えないくらいに平和だ。
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