第十九話

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貴之もきっと家で寝ぼけているのではないだろうか。なんて平和ボケした考えが浮かぶ。 小波がぼんやりしていて、うっかり負けなしのスマブラで負けたとき、蘭が小波の肩に顎を乗せた。 「小波、自分らしくないことキャンペーンしようぜ」 緊張し過ぎて見ていられない小波を後ろからゆっくり抱き寄せて蘭が首筋を舐める。 小波は一瞬で目を潤ませて、頷いた。 そう、最期まで足掻き続けよう。 「しよう。何する?」 「俺らしくないこと教えて」 「えーっと、えーっとねぇ、蘭っぽくないか。勉強するとか?」 「うっわ、最低のアイデア」 「勉強してみる?」 「ヤダ」 二人でそれだけは嫌だと笑いあった。 「みんなで俺を軟禁して守って、俺がお姫様みてぇだな」 「そうだよね。今日は蘭姫様だ。しっかり守られてね」 またやりたいことリスト表を持ってきて、今からでもできそうなことを考えてみた。 何が起こるかわからなくて怖すぎるので、下宿から一歩も出られない。 「家でできることでまだやってねぇやつ、あー風呂入る?一緒に」 「うえぇええ?!千香子さんいるじゃん?!」 「わかってるっつの。そんな親の前で明け透けにエロいことしようなんてのが俺らしくねぇだろ?」 「親に隠れてクズエログレてたもんね」 「お前が俺をどう思ってるのかよーくわかるわ」 「え、でもうわぁああどうしよ、ええマジ??」 「よし、入ろう」 千香子がオーマイガー!とキャアキャア叫びながら見逃してくれて、 自分らしくないことキャンペーンを無事に実行。 最後まで足掻き方が独特なんだけど蘭姫……と小波は蘭に抱っこされる湯船で頭を抱えた。 1人で貴之を探しに出かけた京子はテテの家を訪れた。だが、テテは留守だった。 里緒菜の家も訪ねてみたが、誰もおらず空振りに終わってしまった。 貴之は家にも帰っていなくて、いよいよ本格的におかしいことに京子は気がついていた。 「どうしよう、貴之」 いつだって、どうしようと泣きつけば貴之が応えてくれた。京子は今、誰にも頼れない状況で、選択を迫られている。 蘭と小波の側にと貴之に言われた。きっと従うのが京子らしい。 でも、最後まで足掻き続けると誓って自分らしくないことキャンペーンを続けてきた。 「京子らしくない」ことを選ぶ。 そうみんなで頑張ってきたのだ。常に可能性の低い方へ行こう。 蘭は家から出せない。危険すぎる。 小波が約束を守ってくれる。 貴之を守るのは、京子だ。 京子はもう一度、テテを探し始めた。きっとそこに貴之もいると信じて。   
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