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自信がもてない、自分のことが嫌いだ。
だから、私は月を見上げる。
真っ黒な暗闇が広がる空に、一際大きく輝いてみえる、月。
何もない空間の中、毎日毎日、ただただそこに居続けるだけ。
月は———まるで、私のようだ。
公立高校の、放課後の理科室。
ここで今、『天文部』に所属する生徒による『好きな天体プレゼン会』が行われていた。
私は、教壇で発表している生徒を見ていた。
特に気持ちが高揚している訳でもなく、真剣に聞こうと思ってる訳でもなく、ただここにいるだけ……って感じだ。
天体は、大好きなのにな。
「これで、発表を終わります」
ペコリとお辞儀をした生徒が、教壇を降りてくる。
でも、今の発表は結構すごかったな。
ちゃんと天体のこと調べてたというか、こだわりがあったというか。
誰だっけ。たしか二年生の先輩で、部長だったような。名前は…………、
「次、順番だよ」
肩をたたかれて、我に返った。
いつの間にか、私の番だ。
私は慌てて立ち上がり、……そのまま動けなくなってしまった。
ドクドクと心臓が鼓動を打ちはじめ、下を向いたまま時が止まる。
……ど、どうしよう。前に行けない……。
私が何もできず、ただ立ち上がって固まってる時間を、部員は怪訝な顔で待っていた。
「……無理そう?」
しびれを切らしたのか、二年生の先輩が前から苦笑いを浮かべて聞いてくる。
私は……、コクッと頷いた。
「……ごめんなさい」
私はそれだけ呟いて、静かに席に座った。
周りの空気が、「またかぁ」ってなるのが分かった。
その空気を作ってしまった罪悪感と、申し訳なさで体が萎縮していく。
「じゃあ、発表はここまでにしようか」
後ろで発表を聞いていた顧問が、前へ出てきた。
「発表お疲れ様でしたー。今日の内容はこれだけだから、今日はもう各自解散で」
顧問が教壇から降りると、同時に周りで話し声が聞こえ始めた。
三年生が引退して、二年生三人、一年三人で活動してる、小規模な部活動。
小規模だからこそ、部内はみんな仲良しでトラブルもない平穏さ。
そんな中、私はひとり荷物を片付けて理科室を後にする。
三階の廊下の、突き当たりにある理科室。
廊下へ出ても誰もいる気配はせず、上履きの足音が響き渡る。
靴に履き替えて外に出ると、十月にしては冷たい風が吹いていた。
私は早足で帰り道を歩き、家へ帰り着いた。
夕食を食べ、自分の部屋に戻って窓を開ける。
ふわっと吹いた風に、カーテンが揺れた。
「……今日は、半月か」
真っ暗な空の闇の中に浮かび上がる、大きな月。
半分だけ欠けて見えなくなっている半月は、綺麗な円ではないけれど美しく見える。
「……月はこんなに綺麗なのに、どうして私はこんなに惨めなんだろう」
月を見上げながら、そんなどうしようもない声が漏れてしまった。
私———丸山律月は、小さい頃から月を見るのが好きだった。
名前に、月の字が入っているからかもしれない。
私たちを照らす、大きな光になってくれる月。
私は、そんな月が大好きだ。
何か辛いことや悲しいことがあったら、月を見上げる。
この静かで繊細な光が、私の心を浄化してくれるような気がするんだ。
そして、いつからか月と自分を重ねるようになっていた。
何もない、暗闇の中でじっとひたすら輝く月。
つまらなくないんだろうか、といつも思ってしまう。
月と私が違う点を挙げるとすれば、月は輝けるけど私は輝けない……ということだ。
もちろん、月は自分で光っている訳ではなく、夜のうちでも太陽が月を照らしているんだ。
だけど、私たとえ太陽がいたって輝けない。
いつまでも小さく縮こまって、誰かの光なんて受けられない。
———自分に自信が持てないからだ。
臆病で、人見知りで、それに誇れるところが何もない。
ただ、天文が好きなだけの女子高生だ。
だから、高校では自分の好きなものに夢中になれることをしようと、天文部に入った。
なのに私は自分に自信が持てないままで、あるトラウマのせいで未だに人前に立つのが怖い。
大好きな天文なのに、楽しくない。
……こんな風に思ってしまう、自分が嫌だ。
結局、どこで何をしていても私の居場所はないんだと自分が嫌いになる。
いつの間にか下がっていた顔を持ち上げ、月を見上げる。
半月の月は、当たり前だけど欠けていて、なんだか今の自分と同じに思えた。
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