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月日は流れ、明日が文化祭。
私は放課後の部活で、教壇に立った。
明日のために、みんなの前に立つ練習だ。
……一人じゃない。夕陽先輩も、いる。
そう思うことで、いつも張り詰めていた心はほぐれていく。
たくさんの人がステージ発表を見に来るんだから、この場で発表できなきゃ話にならない。
自分からお願いして、発表の練習をさせてもらったんだ。
…………最近の私は、昔の私じゃない。前よりは、強くなってる。
私は深く息を吸い込み、口を開いた。
「……私が発表する天体は、月です」
ゆっくり、はっきり、大きな声で……。
それを意識して、前に座ってる人のことを気にせずに喋り続けていく。
「月は、太陽の光を受けて輝く星であり、」
大丈夫。何回も練習してきた。大丈夫、大丈夫———。
「……これで、発表を終わります」
気付けば、発表を終えていた。
最後の言葉まで言い切って、私は息を止める。
……できた。発表、できた。
「……すっごい」
暁音ちゃんが、ぽそっと呟いた。
私は、目を見開く。
「すごい!すごかったよ!」
叶ちゃんも、顔を明るくさせる。
私は、胸がふるっと震える。
「できるじゃん、律月ちゃん!」
「すごいよ、完璧だったよ」
先輩二人も、拍手をして私の顔を見た。
二人の拍手に加わって、一年の二人も手をたたく。
そして……、一番後ろで聞いていた夕陽先輩も、ニッと笑っていた。
私は嬉しくて、頬を紅潮させる。
席に戻った私は、まだ胸を震わせていた。
「上手だったよ、律月」
夕陽先輩が、私の隣に座った。
隣に座られて驚くけど、私は顔を緩ませる。
「あ、ありがとうございますっ」
夕陽先輩に褒められたのが、一番嬉しい。
私は、嬉しくて胸が熱くなる。
「できるじゃん、律月ちゃん!」
「もう、最初から自信持ってくれて良かったのに!」
叶ちゃんと暁音ちゃんが、私にむぎゅっとくっついてきた。
その距離の近さに驚きながらも、私は笑みをこぼす。
良かった……前に立って、発表できた!
その嬉しさに、まだ胸がドキドキする。
「みんな、発表がハイクオリティだなぁ。たくさん観に来てもらいたいけど……天文部の発表は、一日目の午後一発目か」
「昼明けだと、あんまり観客来ないかもね」
香澄先輩と曜太先輩の声に、私は心の中で軽くガッツポーズ。
お客さんは、あんまり来なくて良い。
やっぱり今立てたとしても、完全に人前に立つ勇気ができた訳ではないから……。
でも、頑張りたいんだ。
尊敬してて、なんでもこなせる夕陽先輩と一緒の舞台に立つことができる。
私なんかが一緒に並ぶなんて、身の程知らずだって分かってるけど。
だけど、せっかくの機会なんだ。
憧れの夕陽先輩に、ちょっとでも近付きたい。
こんなに自信が持てなかった私が、何かに一生懸命になれるようになったのは……夕陽先輩のおかげだ。
だから、めいっぱい頑張りたいんだ。
「やっぱ、全体のトリは夕陽だな」
「うんうん。私が最初で、二番目が曜大。三番が叶ちゃん、四番、暁音ちゃん。一年最後は、律月ちゃんってことで」
私たち一年は、揃って頷く。
でも、内心はすごく心配だ。
一年生のトリを任せられたけど……大丈夫かな。
「律月ちゃん、明日、頑張ろうねっ」
叶ちゃんの笑顔に、私は「うん」と頷く。
まだ心配だけど……、まずは自分を信じて、頑張ってみよう。
「律月ちゃん、ほんと表情豊かになったよね」
「うんうん。よく笑ってくれるようになった」
二人が顔を見合わせてそう言うから、私は「それは……」と、確信する。
全部、夕陽先輩のおかげだ。
夕陽先輩が、私に自信を持たせてくれた。
私の、大好きな尊敬する先輩が。
夕陽先輩を見ると、彼女は私を見て少しだけ唇の端を上げて眉を跳ねた。
「よーしっ、天文部史上、一番の見どころ!明日は思いっきり頑張ろうっ!」
香澄先輩が強く腕を天井に突き上げ、みんなそれに続く。
私も、遠慮しながら前の方に手を伸ばす。
だけど、誰かに腕を掴まれてまっすぐ上にあげられた。
夕陽先輩だ。
先輩は、私を見て晴れやかな顔つきで一言。
「頑張ろう」
私も、その言葉を噛み締めて頷く。
……私らしく、精一杯、頑張ってみよう!
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