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次の日、放課後の理科室。 ガヤガヤと例の四人が楽しそうに笑って作業してる中、私はこの世の終わり……というテンションでいた。 向かい合わせの席に座り、目の前に座っているのは、部長。 こちらに顔を向けず淡々と何か書き込んでるけど、私の視線に気が付いたのか顔を上げる。 「なに?」 若干不機嫌そうな部長の声に、私はピュッと肩をすくめる。 「な、なんでもないです…………っ」 私はバッと下を向き、机の上に広げた原稿に目を落とした。 初めて部長と会話なんてするから、ドキドキしまくって息がしづらい。 大丈夫なのかな……と、私は不安に駆られながら下を向いていた。 文化祭で発表する内容は、この前発表した『好きな天体』の発表だ。 文化祭で発表するからには、それなりの完成度が必要。 だから、先輩後輩でペアを組んでお互いに見合おう……ってことになったんだけど。 私は、もう一度チラッと部長を見る。 なんで私が部長とペアに……。 それに、部長は完璧だろうし、私が直すところもない。 問題なのは、私の方だ。 私はこの前発表できなかったけど、ちゃんと原稿は書いたし、家で練習もしていた。 だけどどうしても人前に立つと……というか、そもそも立つところまでもできないんだ。 中学生の時のトラウマがよみがえって、動けなくなる。 たった五人の部員の前でも発表できない私が、文化祭の体育館で発表? そんなの、できる訳がない。 自分を変えるにはこれが一番良いチャンスだけど、いきなり体育館で発表なんて、本当に無理だ。 原稿を見てもらう前に、やっぱり辞退したい。 そこまで考えて、私はハッとした。 もしかして、今が部長に伝えるチャンスなんじゃ……? 部長と会話なんて緊張するけど……。 私は話しかけるチャンスを伺おうと、チラチラと部長を見る。 「なに?書き終わったの?」 視線に気付いた部長が、目線を上げて私を見た。 「えっ…………、は、はいっ」 げ、原稿は既に書き終わってるけど、そういうことではなく……。 だけど、肝心なことは言えないまま部長は私の原稿に目を通す。 サッと目線を走らせて、原稿を読んでいく先輩。 私は、体を縮こませながらそれを待っていた。 ……な、なんか、原稿を読まれるの恥ずかしいな。 私の発表自体は部長も見れてないし、私の稚拙な文章、ちゃんと伝わる……? もしかしたら、部長からめちゃくちゃ罵倒されるかもしれない。 そんなことになったら、私もう無理だ……。 そんな未来しか見えなくて、私は血の気が引いてくる。 読み終わった部長が、紙を机に置いた。 そして、口を開く———。 「…………良いじゃん」 予想と正反対の言葉が返ってきて、私は拍子抜けする。 「え…………?」 「テーマにした『月』の調べ学習、構成と内容、全部文句なしだよ。……すごい」 顎に手を当てて、しみじみと呟く部長。 ……い、今の言い方、心からすごい……と言った風に聞こえた。 「律月……だっけ?」 いきなり名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。 「は、はい」 小さく頷くと、部長は私の目を真っ直ぐ見てきた。 「律月、月が好きなの?」 「あっ……、はい。名前に、『月』の字が入ってるので」 勝手に、月が好きになった理由まで口から流れ出てしまった。 やば…………、こんなこと言っても、部長は困るだけだよ。 発言に後悔して、私は口をつぐむ。 そしたら、部長は一瞬目を伏せた。 「……私も。名前に『太陽』が入ってるから、太陽好きなんだ」 私は、部長を見て思考を巡らせる。 たしか部長の名前は、瀬尾夕陽……だ。 名前が、夕陽。たしかに、太陽だ。 「……一緒だね」 普段、ほとんど笑わない部長が、笑みを浮かべた。 すごく嬉しそうに、優しく。 私は、その笑顔に目を奪われてしまって固まる。 「律月、こんなに良い原稿書けるのになんでこの前発表しなかったの?」 部長は話題を変えて私の原稿に目を落とす。 私はパチパチと瞬きをして、言われたことを理解する。 「……や、とんでもないです。良い原稿だなんて。私なんか……」 私は、困惑して下を向く。 お世辞で言ってもらえるだけでもありがたい。 私なんて……全然、ダメだ。 「なんで、そんなに自信持てないんだろうね」 なかなか顔をあげない私に対して、部長は独り言でそう呟いた。 私は、顔を上げられず下を向いたまま。 ……なんでって、私が聞きたい。 どうして、こんな風になってしまったのか。 なんで、こんなに自信が持てなくなってしまったのか。 ———原因に心当たりのある、中学生時代の自分に聞きたいよ。
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