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それから、私は夕陽先輩のことをだんだん尊敬するようになっていた。 自然と目で追ってしまうような、華やかさと存在感がある。 この前一緒に話をしただけで、何だか心を許しちゃうような、そんな温かさがある。 ……すごい、夕陽先輩。 「律月、発表の進行どう?」 部活中、いつも通り後ろの端っこの席で座っていた私を、夕陽先輩がわざわざ来てくれた。 「あっ……、今、発表用のスライドを作ってます。それができたら、見てもらっても良いですか……?」 「もちろん。終わったら見せて」 夕陽先輩は、真剣に頷いてくれる。 「……ありがとうございます、夕陽先輩」 軽く頷いて立ち去っていく夕陽先輩に、私はお礼を投げかけた。 「……律月ちゃん、最近部長とめっちゃ話してない?」 「思ったっ。なんかすごい距離近いよね」 その時、私の右側から同級生たちの小さなヒソヒソ声が聞こえた。 呼ばれた自分の名前に、耳がピクッと反応する。 ……とてもじゃないけど、右を向けない。 今のこの感じの内容、絶対に悪口を言われてる。 私は過敏に反応してしまって、夕陽先輩にだけちょっと開いていた心のドアがシャットアウトする。 「部長と仲良くなるのって、………よね」 「えっ、実は……んじゃない?」 声が小さくて、ところどころ聞こえない。 私は、作業している振りをしながら胸が締められて行くような気分になる。 ……私と、夕陽先輩のことを何か言ってるの? 私、気付かないうちに何かしちゃった……? 思いつくような、あの子たちの反感を買うようなことはしていないと思う。 心当たりがあるといえば……。 最近、夕陽先輩とよく喋っていることだ。 他の子に比べて、夕陽先輩だけには普通に喋れるようなってきた。 ……それがいけないの? 頭の中で、どんどん悪い方に広がっていく想像。 一回、こういう風に思ってしまうとダメだ。 一回、自分のことを悪く言う人……って認識したら、その子と普通に接せられない。 ……ただの陰口で、自分の存在を否定されている気分になってしまって。 私は、いつからか同級生のことを避けるようになっていた。 *・゜゚・*:.。..。.:*・’ ☾ '・*:.。. .。.:*・゜゚・* 「律月」 名前を呼ばれて振り返ると、夕陽先輩だ。 私は無意識に、周りを見て同級生がいないかを確認してしまう。 ……まだいないみたい。 「前にさ、スライド見てほしいって言ってたじゃん?スライド、作り終わった?」 スライド……、私が一週間前ぐらいに夕陽先輩に言っていたことだ。 先輩、覚えててくれたんだ。 「あっ、あの、昨日作り終わったので、見てもらえますかっ」 「良いよ。どれ?」 私は、教壇の横にある部活共有のパソコンから、自分のフォルダに入れてあるスライドを夕陽先輩に見せる。 「…………うん。良いね。何も問題ないよ」 夕陽先輩は、前かがみで画面を見ていた姿勢を元に戻す。 「あ、ありがとうございますっ」 良かった……これで、原稿と発表の時に見せるスライドは作り終わった。 文化祭に出る時の下準備は、これでほぼ終わったことになるけど……。 肝心な、みんなの前で発表するっていうことができていない。 これをなんとかしなきゃ、文化祭では発表できない……。 そう思いながら、パソコンを消す。 その時、入口から高い声と共に同級生達が入ってきた。 入口側にパソコンがあるから、入ってくる同級生とバチッと目があってしまう。 この前のことがあって、私は咄嗟に目を逸らした。 パソコンのキーボードあたりを視線を落としながら、ドクドクと心臓が鳴る。 「……どうしたの、律月」 異変に気付いたのか、夕陽先輩が声をかけてくる。 私は、バッと顔を上げた。 ……私が夕陽先輩と話したら、またあの子たちの反感を買ってしまうかもしれない。 それで、あの子たちから、もしもいじめられたら……。 私は、声をかけてくれた夕陽先輩を振り返ることができず、顔を下げてその場から去る。 そして入り口から理科室を出て、廊下を歩いて後ろ口からもう一度理科室の中へと入った。 ……理科室の中を歩けば良かったのに、あの子たちの横を通るのが怖くて、外をまわってしまった。 何してるんだろう……って、自分でもよく分かってる。 なにも言われてる訳じゃないのに、いじめられてる訳でもないのに。 だけど、自分で意識しだしたら周りの目が怖くて。 ……やっぱり、夕陽先輩とは近付いたらダメなのかな。 私の憧れのような先輩だけど、先輩として距離を置いた方がいいのかな。 今の私を繋ぎ止めてくれてる夕陽先輩だけど、自分との立ち位置が違いすぎて、隣に並んではいけないように感じる。 ……夕陽先輩は、存在が大きすぎるんだよね。 私は、理科室の隅っこの席で、小さく体を震わせていた。 ……自分から色んな人と距離を置くのは、楽だけど苦しい。 いつの間にか色んな人を否定して、跳ね返している気がして。 そうじゃない……って、自分を守るために距離を置いているのであって……って伝えられたら、どんなに楽か。 それができないから、こんなにも自分に自信が持てなくて、自分が嫌いになるんだ。
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