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五
曾祖母と面会した後、私たちも喪服に着替えた。
母は祖母を手伝い、挨拶に来た人たちの対応を行なっていたが、私が幼い頃には20戸70名がいたこの小森の集落も、どんどんと人が減り、今では5戸8名を残すのみで、ぽつりぽつりと来るだけだった。天童にいる祖父方の親戚は、通夜と葬式には出席するが、それだけらしい。
祖父が亡くなって5年も経てば、地方の親戚付き合いもそういうものなのかと、私は短くため息を漏らした。
その後、曾祖母は棺に納められて霊柩車に乗せられ、私たちは祖母と一緒に葬儀業者の手配したマイクロバスで来た道を戻る。
祖母と両親は曾祖母との思い出話やご近所さんのことを話していたが、私はそこに加わる気にはなれず、やはり外を眺めていた。快晴の中、マイクロバスの窓から見えた小森の集落はどこか寂しい。
霊柩車とマイクロバスは農協が運営する葬儀場に到着した。
係の人が粛々と説明をした後、何年前に撮影されたのか分からない満面の笑みを湛えた曾祖母の遺影と、花で飾り付けられた祭壇を前に、私はぼそりと呟いた。
「どうしてお葬式なんてやるんだろう。死んだら何も感じないのに」
「うーん、どうしてだろうね」
独り言だったのだが、隣に座っていた父には聞こえてしまったようだ。少し気恥しくなりながらも、視線を遺影から移す。
「確かに幽霊やあの世がないことを前提にすれば、亡くなった人のために葬式を行なうというのは意味が無い事かも知れない」
話の続きを促すように、私は小さく相槌を打った。
「だけど、亡くなった人のためだけじゃなくて、残された人たちがきちんとお別れをして、前に進むための儀式でもあるんじゃないかと、お父さんは思うんだ」
「前に進むための儀式……」
私はその言葉を反芻しながら、再び曾祖母の笑みをぼんやりと眺めた。
18時から始まったお通夜は滞りなく執り行なわれ、2時間も経たずに終わった。小森の住民、祖父の親戚などが参列したが、全体として弔問客が少なかったからだろう。
仕出しのお清めも終わり、明日は葬式だと思っていたところ、祭壇の方で、葬儀場の職員と祖母が何やら話しているのが目に入った。
祖母が深く頭を下げると、4名の男性職員が棺を運び始めた。そのまま目で追っていると、霊柩車に乗せられたではないか。
「ちーちゃん、お家に帰ろうか」
祖母からかけられた言葉に、祖父のときとは異なり、小森の家か或いはその近くで葬式を行なうのだろうかとも思ったのだが、小森の家に戻ってみれば霊柩車も棺もなく、付近には葬式が出来そうな建物もやはり見当たらない。
今まで参列した葬儀とは異なる様相に疑問を覚えたものの、そんなものかと諦め、両親に促されるままに私は床に就いた。
柱時計の音が聞こえる。
私はスマートフォンの通知欄を確認し、急ぎの用事が無かったことに安堵する。
柱時計の音が聞こえる。規則正しく、かちこちと。
「お母さん、お婆ちゃん一人になっちゃったね」
「そうね」
「集落の人もどんどんいなくなって、その内、みんないなくなっちゃうのかな。何もかもなくなっちゃうのかな。寂しいよね」
「そうね」
「お母さんはどうして、ここを出たの?」
「……嫌だったからよ」
「どうして?」
「……明日になれば、茅花にも分かるわ」
柱時計の音が聞こえる。
規則正しく、かちこちと。
少し寂し気に。
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