さくら、さくら。

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さくら、さくら。

 世の中には、はっきり目に見える幽霊よりも恐ろしい怪談というものがある。今回僕は話すのはそういう話だ。  こう言うと君たちはきっと“ああきっと、人間が怖いってオチなんでしょ”と予想すると思う。ところが、今回の話はそれもちょっと違う。とにかく、最後まで聞いてから考察を話してくれると嬉しい。  これは、僕が小学生だった時の話。  桜の木がある学校、なんてのは珍しくもなんともないと思う。うちの学校の霊にもれず、校庭をぐるっと桜の木が囲っていた。春になると白い靄がかかったみたいに一斉に花を咲かせて、それはそれは近隣住民の目を楽しませてくれたものである。学校でお花見ができるなんて格別だ。僕は桜が大好きだったし、小学生の頃は友達と一緒に学校でお花見ピクニックみたいなこともした。いや、ただ単に桜の木の下でビニールシートを敷いて、お弁当を食べて騒ぐってだけだったんだけども。  そんな僕の学校が他とちょっと違っていたのは、校庭の真ん中にとびぬけて大きな桜の木があったってことだろう。  うちの学校のシンボルのように扱われていた桜の木。なんと、この学校が作られるより前からあったらしい。戦前からあるというこの学校の建築前からあるって、一体どれだけ長生きな木なんだろうか。校舎よりも高いその木は、ある意味神様みたいにみんなに大事にされていた。別に注連縄がかけられていたとか、そういうのではないんだけれど――先生によってはわかりやすくこう呼んでいた気がする。 「じゃあ、今日の四時間目は“さくらさま”の前で集合ですね」  さくらさま、と言ったら基本あの一番大きな桜の木を指している。  ひょっとしたら、あそこには何かが宿っているのかも、なんて。信じている人はそう信じていたのかもしれない。
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