さくら、さくら。

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 ***  その後も、怪異は続いた。  次におかしくなったのは隣のクラスのCくん。彼は、家にあった灯油を持ち出し、さくらさまの木にぶっかけて燃やす寸前で止められた。  その次はなんと、一年生の担任だったD先生。長くこの学校に勤めているベテランの先生なのに、何で急におかしくなったのかはわからない。しかも、大人の女性である彼女が突然桜の木の下で裸になり、木の根元に糞尿をかけるという異様な行動に出た。とにかく大嫌いな木を汚してやらなければ気が済まなかったということらしい。  その次にいなくなったEちゃんは六年生の女の子だった。彼女は塾に行くといったまま行方をくらました。そして、三日後にさくらさま、の樹上で、木の枝にかじりついて気を失っているのが発見されたという。三日間彼女は飲まず食わずで、脱水症状で死ぬ寸前だった。排泄も風呂も気にせず、木の上で一体三日間も何をしていたというのだろう。  おかしいといえば、さくらさま、の木そのものもやっぱりおかしい。たくさんの人が無理やり傷つけようとしたのに、実際は木の幹にも枝にも一切傷がつかないのだ。彫刻刀で抉ろうとしても無事だったし、汚そうといろんなものをぶっかけても、何故か木の本体は綺麗なまま。やっぱり何かが宿っている、ということなのだろうか。ここまでくればもう、みんな面白半分で話題に出すこともできなくなってしまっていたんだ。  よく、怪談には“実は昔、この木で人が首を吊って死んだことがあって、その怨念がー”なんてオチがつくと思う。その幽霊を祓って事態が解決、もしくは解決するだろうとなったところで話が終わることが多いはずだ。  ところが、この“さくらさま”については誰も何もわからない。おかしな曰くがあったとか、人が死んだ何で話も何もない。  そもそも、ずーっと校庭の真ん中に立っていたのに、突然人を祟るような異常性を示すことなんてあるのだろうか? 「皆さんには、残念なお知らせをしなければなりません」  多分学校側は、あらゆる手を試したのだろう。  さくらさまを祓うとか、別の場所に移すとか、燃やしてしまうとか。  でも、その全部がきっとうまくいかなくて。場合によっては僕達が知らないところで、さらに悪いことが起きていたってことなのかもしれない。 「この学校は、今月で閉鎖されることになりました」  最終的には、学校閉鎖という形で決着することになった。それ以外に手段が見つけられなかったのだろう。幸いにして、さくらさま、を嫌いになっておかしくなる人が出るのは学校関係者に限定されていた。この学校から人がいなくなれば、きっとおかしなことをする人はいなくなるはずと考えたのだ。呪いでも、伝染病でも、それ以外の何かだとしても。  とにかく、このままおかしくなったり、死んだりする生徒や教師がで出続けるよりずっといい。かくして、戦前から続いた古い小学校は、唐突にその歴史に幕を下ろすことになってしまったのだった。  その学校、取り壊しもうまくいかなくて、未だに放置されてるみたいだよ。なんなら君も一緒に見に行ってみるかい?  さて、これで僕の話は終わりだ。大学のミステリーサークルの新聞に載せるなら、たまにはこういう謎が明かされないままで終わる話も面白いと思わない?  え?  その大量の古新聞と、煙草も吸わないのに大量のライターは何に使うのかって?やだなあ、決まっているじゃないか。  どうしても嫌いなものがあるからさ、今から燃やしにいこうと思ってね。
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