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「暫くの間でいいんだ!僕はどうやら結婚させられそうなんだ。誰とも知らない人と!」
「はぁ」
なるほど。彼はこんな風でも皇太子だ。政略婚なのだろう。一瞬でもドキリとした自分が恥ずかしい。
「その結婚話と私とどういう関係が?」
「だから、『僕には恋人がいます』って事にして、結婚は諦めてもらうんだ」
「そんな言い訳が通りますか!しかもそんなお芝居……皇帝陛下が許すわけがないでしょう」
「やってみなければわからないじゃないか!」
「そんな事 怖くてできません!そんな嘘をついて私に何の得があると」
「何の得?」
「えぇそうです」
「あるさ!僕の恋人になるっていう事が、得さ」
「?まるで意味が分かりません」
口裏を合わせて恋人を演じたとして、これまで皇帝陛下のお役に立つために頑張ってきた私の貢献が無になるではないか。それどころか、政略婚を妨害した者として、皇帝陛下から疎ましく思われるだろう。
「カーラー。何が得か、きっと後で分かるさ」
「??」
「じゃ、明日も来るから」
「?!」
殿下は私のおでこにキスを落として、踵を返した。
「あっ…ちょっと殿下…ッ」
おでこのキスに呆然としてしまい呼び止めるのが遅れ、殿下は出て行ってしまった。
OKの返事などしていないのに。
恋人になる?恋人って何?
婚約するわけじゃない。じゃあ何なのだろう。
殿下は私の事が好きなのだろうか?
いや。政略婚から逃れたいだけだ。私を利用しているのだ。なのに……
そっと、おでこに触れた。
私だけがドキドキしているなんて、ずるいではないか。
そう、ずるい―――
殿下は生まれながらに全てに恵まれている。
私は追い付くのに必死だ。後れを取りたくないのだ。
殿下と肩を並べられる者でありたいのだ。
ふと気付くと、殿下の従者が部屋のあちこちに花を飾ってくれていた。見舞いのつもりか?それとも恋人へのプレゼントなのだろうか?
そういえば、さっき殿下は外の従者に何やら指示を出していた。
こういうキザなところは……少し苦手かもしれない。
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