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甘い日々を重ねてひと月も経たないある春の日―――
私は、皇帝陛下の下へと参上すべく、重い足取りで廊下を歩んでいた。もちろん、進んで私から伺うわけではない。お呼びがかかったのだ。
何を言われるのだろうか。殿下との噂に関する事であるのは間違いないだろう。あぁ…先日は戦いに勝利した事を褒めて頂いたのに。今の私は、悪い事でもしている気分だ。
長い挨拶をし、長い御簾を上げて陛下の待つ部屋へと進んだ。
「お呼びでございますか」
上目遣いに陛下のお顔の色を伺う。怒ってはいない様子だが、笑ってもいない。いつもは明るい陛下だが、何だか表情が無いように感じる。
「カーラー、よく来てくれた。座ってくれ」
いつものように気さくに話しかけてくれた。私は勧められた椅子へ進んだ。
「は、はい。失礼致します」
「体はもう大丈夫か?」
「は?」
「帰郷のあと倒れたと聞いた。医師が戦いの疲れではないかと」
「あ…あぁ、はい。もうすっかり良くなりました」
何と、床に臥せっていた事が陛下のお耳にまで届いていたとは。あの時、医師に口止めしておくのだった。
「お前が熱心に、戦いに出ると言うから許したが……やはり無理をするものではない」
「いいえ!少し流行りの風邪をひいただけです。陛下!私は、私の指揮で、十分な戦果を挙げました!次の命令を…どうかお命じになって下さい」
「……」
私は胸に手を当て、心から訴えた。
「私は陛下のお役に立ちたいのです。どうか、皇子たちと同様に、私にお命じ下さい」
陛下は観念したように苦笑し、一呼吸おいて私の名を呼んだ。
「カーラー」
「はい!」
「私に娘はいない。私は姪であるお前の事を、自分の娘のように大切に思ってきた」
「陛下…」
「戦地にお前をやりたくなどなかった。しかしお前は全ての命令を完璧にこなし、いつも私を驚かせた。カーラー、お前はどの皇子にも引けを取らない。素晴らしい私の娘だ」
「……」
今日は一体どうしたのだろう。こんなにも私を褒めて下さるなんて。
「カーラー、私の、最後の命令を聞いてくれるか」
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